男子校であるため女子用の設備なんてものは存在しない。それでいて国は男子と女子の境目を厳しく隔てた。
原則授業はすべて一緒だが、体育は2人の“女子”のために男女に分かれさせられ、トイレも更衣室も教職員用を使うよう厳命が下った。
それが俺らを女子として扱うことで、女子としての自覚を持たせようとするプログラムの一環だということは薄々感づいていた。

 あの日から、俺とその周りの世界は一変した。
「どうせ全員とヤることになるんだろ? だったらさっさと終わらせてしまおうぜ」
 クラスメイトの口からは“お誘い”の言葉がよく聞かれるようになっていた。目の前にいる狩られるだけの獲物がいて、相手が許せばすぐにありつくことがで きる。
欲望の盛んなこの年代の若者をTS法施行の対象に選んだのは、間違いではないようだった。
欲情した熱っぽい視線が四六時中突き刺さる。いつ俺から声がかかるか、期待を込めて。
「今はまだ」と俺が断ると、誰もがおとなしく引き下がった。法を破ってまで事に及ぶ危険を冒さなくてもいつかできる、それが抑止力となっている。
 だが、クラスメイトの言うとおりだ。早かれ遅かれ全員の子を産まなければならない。
そこに俺の意思なんてものが介在することはない。
俺には母体提供者としての価値しかないのだから。

  ◇◆◇

 一週間も過ぎる頃には、学校中の男子の挙動がおかしくなってきた。
「いつになったらヤらせてくれるんだよ!」
「もったいぶるんじゃねえ!」
ピリピリしているし、イライラもしている。溜まったフラストレーションが怒りとなって俺にぶつけられる。
“おあずけ”されて一週間。来るべき日に向けてオナニーもやめて、色んな意味でいよいよ限界のようだった。
そして口々に発せられる罵倒の後には決まってこんなセリフが続いた。

──どうせお前はヤるしかないんだからよ!

『最初はためらいや恐怖もあるでしょう。しかし、そのための薬です』
 スーツの男の言葉を思い出し、ポケットの中のケースを握り締める。一歩踏み出せばあとはなし崩しになるのは目に見えた。
この一歩を踏み出すのに必要なのは勇気だろうか、それとも諦めだろうか。

 昼休み、屋上に続く階段の踊り場で、俺は独り昼食のパンをかじっていた。
屋上はカギがかかっているので誰も来る理由がないし、階段の下からもここに俺がいるとは見えない。
俺を見れば誘ってくる生徒。せめて昼休みくらいは自由になりたかった。
「おー? こんなところでなにしてんだぁ?」
 嫌な奴に会ってしまった。2年ながら有名人──暴君という意味で。190近い身長にがっしりとした体格。こうして至近距離で見ると山のようだ。
 その横を通り抜け、どこか別の場所に行こうとして、腕を捕まれた。
「おいおい、なにシカトしてんだよ。あぁー、俺傷ついちゃった。慰めてくれるよな?」
 俺はその言葉を額面通りに受け取らなかった。TS法は対象となったクラスにしか適用されない。
それに厳守すべき三項目はこいつも知っているはずだ。だからそれを冒すとは思わなかった。
それから一瞬の出来事だった。
正面から押され壁に背中を押し付けられ、空いていたもう片方の手も掴まれ、頭の上で一つにまとめられる。それを片手で押さえつけられた。
「みんなガマンしてるんだけどよ、もう限界でよ、だから俺が代表してヤってやるよ」
 法を破ってしまうほど意思が弱いのか、法を破るほどに本能が強いのか。目は血走り、荒い呼吸が顔面をくすぐる。
縛めを振りほどくには体格に差がありすぎた。身じろぐのが精一杯という有様だ。
 暴君が制服の襟首に手をかける。「やめろ!」叫ぶと、「うるせぇ!」平手で殴られた。
たったそれだけのことで二の句が継げなくなった。
暴君が手に力を込め、真下に振り下ろす。布が裂ける音とともにあっさり制服が中央から割れた。
「こっちもついでだ」
スカートの中に手を伸ばし、次の瞬間にはショーツは引きちぎられていた。そのショーツの残骸を口の中に突っ込まれる。口いっぱいの布の感触。
現れたブラジャーの上から乳房を大きな手がまさぐる。気持ちいいなどと感じるわけがない。あるのは嫌悪──と恐怖。
慣れた手つきでブラジャーをはずされ、今度はじかに触られる。体温を感じて嫌悪感が増す。
 胸に飽きたのか、指が無防備にさらされた割れ目をなぞりあげる。俺は内股になってその侵攻をとどめようとするが、所詮は無駄な足掻きだった。
やすやすとこじ開けられ、手を差し込まれる。
「しっかり濡れてきたぜ? 感じてんだな」
 触れられたときから、俺の中から熱い何かが分泌されていた。だがそれは感じているからじゃない。
本人の意思とは関係なしに“準備”を始める女の生理現象だ。
 湿った音がだんだんと大きくなる。
「じゃぁそろそろ……挿入れるぜ?」
 ファスナーを下げ、現れた勃起したペニスは異形ともいえる巨大なものだった。これが俺に挿入れられる。悪い冗談だ。夢でもここまでの悪夢はない。

 床に座らされ、股を開かされる。両手は後ろ手で暴君のネクタイに縛られていた。これからを止める手段を俺はもう持ってない。
 ぎちぎちと冗談のようなめり込む音がした。
「んんんーーーーーーーーーーッ!!」
夢といえば、この女になってしまってからの人生は覚めない夢でも見ている心地だった。
何かの拍子で夢から覚めれば、いつも通りの生活に戻れる。そんな儚い希望も持っていた。
そんな希望は今、この瞬間、消滅した。目の前にあるのはただ、現実。それから、気が狂わんばかりの痛み。
 ──薬!
 激しい痛みで現実を思い知り、助けを呼ぶことよりも先に思い出したのは、銀色のケースに入った赤い薬のことだった。
──初めてでも痛みを感じるどころか、何倍もの快感を得ることができます。
もうこんな痛みに耐えられない。早く楽になりたい。痛みが思考を狂わす。
「んん〜〜! んんんんんん!!!」
 詰め物が邪魔で伝えられない。
「おおっと、忘れてた。お前処女だっけな。まだ全部挿入れてないってのにすげぇ締め付けだぜ。お前のそんなのを見てると──処女の悲鳴ってのを聞いてみた くなった」
 背筋が凍るような壮絶な顔だった。相手を痛めつけることに快感を見つけるタイプの人間の笑み。
「待ってくれ! 全部、挿入れる前にッ、薬──薬をあ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーッ!!!」
 俺の言葉を歯牙にもかけず、暴君は最奥までペニスを押し入れた。俺の奥で何かが破れた。
「病み付きになりそうだ。女一人に一回きりってのがもったいねぇな」
 膣口まで引き抜かれ、奥まで突く。
 膣口まで引き抜かれ、奥まで突く。
「あ゛ッ、やめろぉッ! あ゛ッ、やめてくれぇ!」
 恥も外聞も捨てて涙ながらに懇願する。痛い。灼けるような痛みが下腹部に蓄積される。
快感なんてひとかけらも感じない。俺の悲鳴を聞くと、暴君は好きな音楽でも聴いているように愉悦に顔を歪めた。
今の俺にできることといえば、早く終わってくれとただ祈るだけだ。
大きなモーションで、時にはゆっくりと、俺の中を確かめるように、遊ぶように、なぶるように、グラインドする。
「あッ、あッ、あッ」
 一突きごとに出したくもない声が出た。嬌声でもなんでもなく、苦しみの呻き声。それを暴君は感じているのと勘違いし、
 ぐちゅっ、ぐちゅっ。
 ピッチがあがる。身体の防衛のために多量に分泌された愛液が挿入と抽出をスムーズにさせる。
その生理現象も俺のためじゃなく、レイプする暴君のためにやっているようにしか思えなかった。
「そろそろ出すぞ。しっかり受け止めて、俺のガキを産んでくれよ?」
 やっと終わる。もう何時間もこうやって犯されているように感じる。だが、それももう終わる。俺の膣内に射精してくれれば終わってくれる。
膣内に出されるという未知への不安もおぞましさもなく、安らぎに似た感情がわきあがる。
「ああ、あーーーーーーーッ!!!」
一際強く、奥深くまでペニスが突き刺さり、熱いものが俺の中に放出された。ペニスが震え、精液が俺の中を叩く。何度も何度も。
ペニスが抜かれると、中におさまりきらなかった精液があふれ出てきた。
暴君が満足げな表情で俺を覗き込む。俺とは目線が合わない。俺は何も見ているようで見ていない。映像として床を見ているが、何も考えてない。
「よかったらまたいつでも相手してやるよ。──あ、そうだ。記念に1枚撮っておくわ」
 短いシャッター音。
「どうだ、これがお前だぜ?」
 携帯の画面に映し出されていたのは、両腕をだらりと力なく床に投げ出し、ボロボロに破られた制服とあらわになった乳房、
めくれあがったスカートの下で股を広げたまま精液を溢れさせる秘部をさらし、片頬を赤く腫らし、虚ろで生気のない目からは涙を流す、無残な姿の少女。
 それを見ても何も思わない。これは俺じゃないからだ。
 あふれ出る白濁の液体と、床に散った赤い血痕。その中心に自分がいても実感がわかない。これは俺じゃない。
 ──じゃあ、ここにいるのは誰だ?

 わからない。

  ◇◆◇

 踊り場から誰もいなくなって次の授業を報せるチャイムが鳴っても、俺は動かなかった。
そのままの格好で。

 やがて誰かが来た。続いて俺の周りに何人もやってきて、大騒ぎしていた。
「────」
 誰かが俺に何かを言う。だが俺の耳には届かない。布みたいなものを被せられ、持ち上げられる。そこで、俺の意識は途絶えた。

  ◇◆◇

 それから数日、俺は学校を休んだ。ずっとベッドの中で震えていた。何故か涙も出た。
 5日目くらいにようやく起き上がれるようになって、のろのろと制服を着込む。
 数日振りの学校は、俺が入ることで水を打ったように静かになった。どう変わってしまったのかは“お誘い”がなくなったことと、2年の教室から暴君の姿が 消えたことで悟った。
 この学校の生徒は性欲よりも自分の身の安全を取ったのだ。

 時折、思い出したように下腹部が痛んだ。あれから一週間近く経って、全快してないわけがない。だからこれは肉体的な痛みじゃない。
 屋上への階段を上る。踊り場。あの事件の跡形はなくなっていた。しかし、また下腹部がズキンと痛んだ。
事件自体“なかったこと”になっているが、本当にあったことをなかったことなんかにはできない。
 下腹部の痛みが酷くなる。場所が記憶を呼び起こしている。
 ここで記憶に刻み付けられたのは、挿入れられた感触と初めての痛み。
 その記憶が蘇る。
 ここでレイプされていたのは、紛れもなく俺だ。
 枯れたはずの涙が目から零れ落ちた。

 俺は、自分が女であることをどうしようもなく自覚していた。


[BACK] [トップページ] [NEXT]


Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!