夜空に丸く満ちた月がカンと冴える晩。秋の夜長を歌い続ける虫たちのリートに二人の笑い声がシンクロしたりしなかったり……
香織は勝人と手を繋いで家路を歩いている。実家で寝ることを勝人の両親に勧められ香織の両親が迎えに来たのだけど、香織は自ら歩いて帰りたいと言いだし
た。
今の彼女にとって『帰宅する』とは特別な意味を持つ事になったのかも知れない。
それが女性化によるものなのか、それとも母親になる事か、はたまた他人の妻となり実家へ帰ることなのか……真相は誰も知らないし香織自信も分かっていな
い。
ただ、もしそれがこの静かな夜の特別な雰囲気を味わっていたいだけだとしても、それは誰をも責めるべき事ではなく、
むしろ上等なディナーを味わった後の余韻を楽しむが如き贅沢な時間を感じている物なのだろう。
かつてほぼ同じだった歩幅はいつの間にか香織の歩幅が小さくなっている。背筋と膝を伸ばし美しく歩けば、自然と同じ程度の歩幅に収まることを勝人は見つ
けた。
些細なことで笑って会話が弾んでただ幸せな夜が更けていく。
生まれてくる子供の名前はどうしようか?
あんな名前こんな名前、二人でアレコレ考えては候補の名前が消えていく。
そんな夢事をしながらボチボチと歩いて香織の実家に到着した二人が見た物は見覚えのない車が停車している光景だった。
即座に緊張する二人だが何事もなかったかのように香織は玄関を開けた。玄関には大きな革靴が一足と女性物のパンプス一足が鎮座し主を待っている。
一体誰が来てるのか、と訝しがる香織だったが居間に入って驚いた。橋本と一緒に宮里が訪ねてきていたのだった。
「あら、彼と一緒にお帰りなのね」
「宮里先生……どうしたんですか?」
香織の警戒は解かれていない。何か良く分からないけど頭の中で誰かが叫んでいる。悲痛な叫び声で何かを訴えている。
そう、嫌な予感がするという奴だ。それも飛び切り嫌な目を背けたくなる程の予感。
無表情な橋本と並んで座る宮里のその笑顔は、今の香織にとって恐ろしい物と同義に見えていた。
「そう警戒しないでよ」
「いえ、けっしてそんな事は」
「顔に書いてあるわよ、ウフフ」
「そうですか……」
アハハと笑って済ます宮里は香織と勝人に座るよう促した。向かいには香織の両親が座っているが警戒する様子はない。
「驚かしてごめんなさいね、帰りの切符を持ってきたのよ」
「え? わざわざここまで?」
「霞ヶ関で会議があったから帰りに立ち寄っただけ。まぁ、そのついでに切符もね」
「霞ヶ関って……」
「ここだけの話、TS法が更に改正されるのよ」
「え?」
「より柔軟に、より公平に、そして、より効率的に……ね」
「それは……」
「まぁ、既に女性転換しちゃった香織には余り有り難みが無いかも知れないけど」
「そうなんですか……」
「でも、そう悲しい顔しないで」
「……」
「まぁ、今はまだ関係無いかもね」
「そうですか」
「ま、そう言うことだから、あと2日間遊んで帰りましょうね」
「え? どういうことですか?」
「明後日の午前中に迎えに来るから」
「え? あの……」
「いい? あなたは身重なのよ? 行きも帰りも護衛付きよ」
そういって宮里は笑った。隣の橋本も笑って時計を見て話を切り出す。
「さぁ、そろそろ時間だ。遅くまですいませんでした」
そういって橋本は立ち上がった。宮里も書類を整理し立ち上がる。
「なんのお構いも出来ませんで……」
香織の母親が玄関まで二人を送った。
「いえいえ、お構いなく。明後日またお邪魔しますので、よろしくお願いします」
「お待ちしております。今日はわざわざありがとうございました」
居間では香織と勝人が顔を見合わせている。あの二人が切符の為だけにここまで来るなんてありえないと思っていた。
香織の両親が居間に戻ってきて二人を見るなり核心の話を切り出した。
「実はね……」
「やっぱり、切符だけじゃないんだ」
「……そうなのよ」
「問題の核心はなんなの?」
「高橋さんの事よ」
「え?」
「今朝の事故でひどい目にあって……」
「やっぱり死んじゃったの?」
香織は一気に涙目になっている。香織の手を握って勝人も話を聞いているが、瞳孔が開きっぱなしになるような緊張だ。
「いや、死んではいないけどね………」
「死んでないけど?」
「脳が活動停止状態なんだって」
「脳死?」
「いや、脳波は生きてる状態だそうよ。ただ、意識が戻ってこないって事」
「それって…」
「いうなれば本人が生きるのを拒否してる状態ね」
「美夏……」
「時間を掛けて脳波レベルでの呼びかけを続けるって話だったけど……」
「もし呼びかけても返答が無い場合は?」
「その時は……脳死判定だそうよ」
「……うそ」
「何でこんな事になってしまったのかしら……」
沈痛な空気が居間を支配する。重苦しい空気に押しつぶされそうなほどだ。
さっきまで香織の胎内を蹴っていた子供までもが、眠っているかのように静かになっている。
なんでこんな事に……
それしか思い浮かばない香織だったが、勝人はもっと激しく自分を責めていた。それを見て香織の父親が勝人をたしなめる。
「あの時、あと半歩、いや、その更に半分踏み込んでいれば……」
「まーくん」
「もっと踏み込めばしっかり捕まえられたのに!」
「……手遅れだよ。あとは本人の問題だ」
「判断ミスです。致命的な……」
「仕方がないんだよ。誰だってそんな時があるものさ」
「しかし……」
「時には割り切るというのも、必要な能力の一つだ」
「人が死んでしまうという事は、割り切ってもいい事なんですか?」
「では寿命で死んでしまう人ですら諦めをつけないでいるとどうなってしまう?」
「それは……」
「世の中にはね、自分の意思や力ではどうしようも無い事もあるということだ」
「はい」
「だから、忘れろとは言わないよ……ただ、不必要に自分を責めてはいけない」
「しかし……」
その後でさらに重苦しい沈黙がしばらく続いた。しかし、何かを思い出したかのように香織の母親が口を開く。曰く、風呂を沸かしたから入りなさい、と。
秋の夜長を歩いてきた身重の香織が、冷えてきっているかもしれないと母親は心配したのだった。その温かい配慮は母親の愛情に満ち溢れている。
私もそうなれるかな……TS法の改正ってなんだろう? そして。美夏は大丈夫だろうか?
色んな事が頭の中をグルグルと回って心配事のメリーゴーランド状態になっている。
これからもっと沢山の心配事を抱え込まなければならない、母親というものへ変わっていく香織の不安は大きくなるばかりだった。
モヤモヤとした不安を抱えたまま、自室のベットへ横になっていた香織の所に風呂上りの勝人が近づいてきた。香織は少し膨らみ始めているお腹をいたわって
体の向きを代え勝人に向き合う。
トランクスにTシャツ姿の勝人が横に寝転がっている。
「香織……」
そう言って勝人は香織を抱き抱えた。ほのかに香る石鹸の成分と勝人の体臭が香織に何かを思い出させる。
「勝人……」
そう言って香織は勝人の胸に顔をうずめた。小刻みに肩を震わせる香織のその仕草が、勝人の中に妖しく燃える炎を燈す。
「大丈夫だ、おれがいるよ。いつも一緒にいるよ、大丈夫だ」
「美夏、大丈夫かな……」
「それは……でも大丈夫だよ、きっとね」
そういってギュッと香織を抱きしめる。きつく抱きしめた時に香織の小刻みな震えが止まった。
もしかして、と思ったのだけど香織は平然としている。汗の臭いがしていないから、おかしくなる事もあるまいと思っていたのだけど、どうやらそれだけでも
無いらしい。
香織の妊娠以来交わっていない二人故に、勝人の性的ストレスは溜まりに溜まっている状態だ。しかし、妊娠中期のセックスがもたらす危険性を知らない訳で
もない。
もうちょっと我慢しておくか……島に帰って一人身のアパート組を探して種付けしてやるといえば喜んで股を開く女の一人や二人はいるかも知れないし。
そう思って香織を抱きしめたまま勝人は寝る事にした。このまま寝てしまえば、とそう思いつつも、やはり心のどこかに妖しくうごめく激情の産物が、むっく
りと鎌首をもたげつつあった。
「勝人……我慢してるでしょ」
「え?」
「ほら……」
そういって香織は勝人のペニスをトランクス越しに撫で始めた。僅かな刺激でムクリと屹立をし始める。
ピクピクと僅かに痙攣し硬くそびえるその手触りに香織はうっとりしているような気がした。
「あなたが私を守ってくれるなら……」
「あぁ、神様に誓っていいよ。必ず守り続ける」
「なら、私はあなたにこの身を捧げていいよ。あなたの妻になるんだから……」
「香織……」
「腕を解いてくれる?」
「あぁ」
そういって抱きしめていた腕を解くと、香織は勝人のトランクスを下ろしてしまった。すぐさま小さな電球の光に照らされた屹立するペニスが姿を現す。
香織はニコっと笑って勝人を見た後でそのペニスを口に含んだ。チロチロと舌を滑らせて、カリ裏から筋沿いを刺激して強く吸ってみる。
「あぁぁぁ……かおり……うぅぅぅ」
「我慢しなくていいよ。いっぱい出しちゃって。すっきりするでしょ」
そういって香織は微笑んだ。その笑顔が愛しくて愛しくて勝人は香織の頭を撫でてやるしか出来なかった。
しかし、ふと何かを思いついた勝人が声をかける。
「かおり……どうせだからケツをこっちに向けてみなよ」
「え?」
「いいから」
そういってペニスに咥え付いていた香織の下半身を勝人は引き寄せた。マタニティナイティの裾を捲ってショーツを下ろしてやる。
勝人の卑猥な予想通り香織のヴァキナはしとどに濡れていた。
「ほら、やっぱり……」
「あぁぁ、だめ……」
「香織、口がお留守だよ」
「あんあいっあ?」
「ほれ」
「あわわわ……」
あい舐め状態の勝人は香織の女性器へ無造作に指を突っ込む。深くまで入れると感染症の危険性が高まるし、オルガムスの絶頂まで行くと膣内を収縮させるホ
ルモンが分泌され、
子宮の収縮作用が発生し早期流産の危険性を孕む。
勝人は大胆に、しかし慎重に香織の変化を探りながら入り口付近を弄ってやる。すぐに香織はガクガクと小刻みに震えながら快感にもまれて始めた。
あまりやるとマズイなと思いつつも、香織が勝人のペニスに愛を注ぐように、勝人も香織のクリ越しに愛を注いでいるつもりだった。
「まさと……だめ……欲しくなっちゃった……おねがい…」
「香織……平気か?」
「うん。浅くね、そっと……」
「わかったよ」
「優しくしてね。この子がビックリするから」
「あぁ」
勝人は香織を抱きかかえて正上位からゆっくりと入れ始める。すぐに香織があられもない表情で喘ぎ始める。しかし、声はグッと押さえている。
もう一度そっと入れてみる。そっと入れながら鎖骨のあたりを撫でてやる。
ホントは乳首を攻めたいところだが、乳首を攻めると赤子に授乳させる刺激と勘違いし乳腺分泌ホルモンが出てきて、それが子宮緊縮と同じ効果を生み出すと
知っているから我慢している。
三度目の挿入で香織は、「あっ…はぁぁ!」と声を上げた。まずいと思ってキスで唇を塞いでやる。すると香織の舌が勝人の口内に入ってきた。
4回目の押し込みと同時に舌を強く吸ってやると、香織の背骨がグーっと曲がって快感に揉まれている様だった。
そして何度か小刻みに浅め浅めの挿入を繰り返し、勝人の下半身から大きな熱い波が押し寄せてきた。
「かおり! 中はまずいから上にな」
「あぁぁぁ! うん! あぁぁぁぁ!」
「う゛……あ゛ぁ……それ!」
そういって勝人のペニスから爆発するようにザーメンが噴き出し、香織の腹上に撒き散らされる。ドクドクと溜まっていた白濁液が噴き出され鼻を突く臭いが
充満する。
「ハァハァ……やっぱり溜まってたね」
「ハァハァ……うん、ごめんすっきりしちゃった」
「アハハ!」
そういって満足そうな香織が勝人の精子を指先で弄っている。ネッチョリと糸を引く様をみて呟く。
「男も女もこれは変わらないね」
勝人は上半身を起こしてベットにすわりティッシュを数枚抜き取ると、香織の上に溜まっている白濁を綺麗にふき取った。そして新しいティッシュで香織の女
性器も拭いてやる。
まだ敏感だった香織がビクッと体を震わせるけどされるに任している。さらに数枚抜き取ったがそれを香織が奪い取った。
「これは私の仕事」
そういって香織は勝人のペニスを咥えて強く吸った。まだ少し残っていた物が吸いだされて勝人もビクッと体を振るわせる。
「香織……ありがとう」
香織は静かに笑いながらペニスを綺麗にふき取って言った。
「これは私専用よ」
勝人も笑って言う。
「当然だ。一滴残らずお前に注ぐよ」。
そのとき、香織の胎内をトントンと子供が叩いた。お腹に手を当てて香織は笑っている。
「ダメらしいよ、先客ですって」
勝人も笑う。
「アレだな、便所に立てこもっていて外からノックされてノックし返すやつ。入ってますって感じで」
なにか不健全に我慢していた部分が解消されて二人は眠りに落ちていった。この交わりは恋人の戯れあいではなく夫婦の営みなのかもしれない。
ギシミシと音のする天井を見上げながら居間にいた両親も目を細めていた。