少年、御浜悠(みはまゆう)には、人には言えない趣味が有った。
此処は某県某所、道行く人々全てとは言わないまでも十人中七人は彼を見て振り返る。
「へぇ…」
「あの子、結構可愛くね?」
「背ぇ低いなー…守ってやりてぇタイプじゃん」
悠は男性としては極端に身長が低く、150pにギリギリ届かない位だ。
そして、顔立ちも幼くくりっとした瞳が印象的であり、服装次第では充分可愛らしい女の子にも見えてしまう。
そんな彼が、こうして女装して街を練り歩く様になったきっかけとは、大きく歳の離れた二人の姉による物である。
勿論これは秘密の趣味であるので、学校のクラスメイトにばれてしまわない様に学区からは離れた所に来ていたのだが。
「ねえねえ、あの子…御浜君じゃない?」
「マジかよ…あー、よく見りゃあ御浜だな、あれは」
たまたま遊びに来ていたクラスメイト達に見つかってしまった。
「っ……!」
咄嗟に悠は走り出す。
既にバレてしまった、今更逃げ出す事には何の意味も無い。
しかし、思わぬ所で見つかってしまった。そんな衝撃を受けた彼にまともな判断をする事は出来なかった。
悠は泣き出しそうな衝動に駆られつつも、何とか家までたどり着く事が出来た。
しかし、家に着いた途端悠の視界は急激に歪む。呼吸が上手く出来ない。
悠は声にならない泣き声を漏らしながら自分の部屋に入る。そして、扉を閉じる事も忘れてベッドに飛び込むとその泣きっぷりは更に
増して行く。
「…っぐ、ぇ…どうし、…どっ……しょ、うぇ…ふぇ…っぐ」
涙でぐちゃぐちゃになった顔をシーツを押し付けていた為、悠の顔は酷い様になっていた。
そんな普通では無い様子に気付いた、悠の二人の姉の内の一人、二女の二葉(ふたば)が彼の部屋に入って来た。
「悠…どうかしたの?」
ベッドで丸くなり泣き寂っている悠を慰める様に背中を撫でながら二葉が声を掛けてやると、悠はぐちゃぐちゃの顔を漸くさらけ出し
二葉の胸に飛び込んだ。
「二姉ぇ…バレ…ちゃったぁ…っぐ、えぇ…どう、しよ…も…がっこ…行けないよぉ…っ」
よしよし、と赤ん坊をあやす様に悠の頭を撫でながら二葉は『そう』と小さく頷いた。
それから暫くして、泣きやんだ悠は二葉に抱き付いたままか細い声で呟いた。
「二姉と…一姉のせいだからね…」
その台詞に二葉は一瞬二の句が続かなかったが、急に意地の悪い笑みを浮かべると悠の目尻に浮かぶ涙を舌で舐め取った。
「それは違うわ。女装する事を強制したのは最初だけだもの、それ以降はお洋服を用意してあげただけよ…?」
実際、二葉の言う通りだったので悠は言葉に詰まり、そして再びその瞳には涙が滲んできた。
「でもっ…誰のせいだって僕が学校に行けなくなった事に変わりないじゃないか…!」
「そうね、幾ら辱められるのが大好きな悠でも、さすがにクラスの子にバレちゃったら学校になんて行けないわよねぇ…」
「僕っ…そんなの、好きじゃないよ…」
二葉の言葉から悠は羞恥に顔を朱に染め上げ、俯きながら否定の言葉を呟いた。
「何にしても、一葉姉が帰って来てから考えましょう。姉さんならきっと良い解決策を考えてくれるわ」
だから、と付け足して二葉は悠の頭をくしゃりと撫でながら柔和な笑みを浮かべた。
「取り敢えずお風呂に入りましょう…? 折角の可愛い顔が台なしじゃあ一葉姉だって驚いちゃうし、ね」