六畳ほどの狭いアパートの一室。
もとは真希が住んでいた部屋だが、そこには今女王となった真希が女奴隷に変えられた裕紀を連れこんでいた。
電灯も消された、薄暗い室内。
そこに不釣合いなほど豪華な椅子が置かれ、そこに悠然と腰掛けている真希。
もともと部屋にそんな豪華な椅子があったはずもなく、何らかの魔法のような力でこの場に出してきたものなのだろう。
真希は胸を大きく強調した真紅のドレスに身を包み、そこからのびる白い脚を大胆に組んでいる。
その足元に寄り添うようにひざまづく格好のメイド服を着た裕紀。
先立っての行為により、その思考ルーチンや行動はほぼ完全に真希が作り出した僕としての人格、
裕美のものへと強制的に作り変えられていた。
つい先ほどまでなら、そのような格好をさせられるのは裕紀にとって我慢ならないものだっただろう。
だが、今の裕紀・・・いや、裕美にとって、その姿で主である真希に仕えることはこれ以上ない至上の喜びとなっていた。
「さて、どうする?」
足元にひざまずく裕美の艶やかな髪を、優しくなでながら裕美に今後の策を問う。
だが、その優しい仕草とは裏腹に、二人の間の関係はもはや普通といえるものではないのだ。
「そうですね・・・まずは私達の周りの者から堕としていくのはいかがでしょうか」
「なるほど。しかし、私は純粋な精気が早く大量に欲しいのだ。なにしろ復活したばかりなのでな」
「はい、心得ております。
しかし、周りの人間に不用意に手を出しては、
下手をすると奴らにあなた様の存在に感づかれ、再び封印されてしまうことも考えられます。
ここは一つ、勢力を固めてからのほうがよろしいかと」
「勢力を固める? 何か策でもあるのか?」
「はい。私の周囲の者どもを、私と同じくあなた様に忠実な僕に作り変えるのです。
そして、その者たちに精気を集めさせ、それらをあなた様のお力に変えれば・・・」
「なるほど。良いアイデアだ。それならば私の目的も早く達成できそうだ。さすがは裕美」
「ああ、ありがとうございます」
うっとりとした表情でつぶやく。
「それと」
不意に真希の手が裕美の顔をすっと引き寄せ、その唇を奪う。
「ううっ、うむっ・・・」
「ん、んっ・・・」
舌を絡めあう濃厚なディープキス。
「これからも私のことは今までどおり真希って呼んでね」
支配者としての口調から一転した仲の良い恋人同士であるかのような態度。
「でも・・・」
恍惚とした表情で真希の瞳を見上げる。
「せめて、二人でいる時は・・・真希様と呼ばせてください・・・私は、真希様の・・・」
しおらしくうつむく裕美。彼女が元男だなどとはとても思えない完璧な仕草だった。
「ふふっ・・・すっかり”なりきっちゃった”のね・・・いいわ、好きにしなさい。早速明日から行動に移すわ。そのつもりでね」
「はい、真希様・・・」
再び二人の唇がすっと近づき、そっと重なり合った。
じきにそれは、激しく情熱的な口づけへと変わっていった。
翌朝8時。
二人がまずターゲットに選んだのは、二人が所属していた研究室のメンバーだった。
宵っ張りの学生が多いこの研究室のこと、まだ他の学生は当然ながら誰も来ていない。
二人の作戦は、ここに来た学生(あるいは教官も)を一人ずつ捕まえ、手駒に変えていこう、というものだった。
真希は、普段と何一つ変わらないような様子で自分のパソコンに向かっていた。
以前の真希が持っていた記憶を引っ張り出してみると、
この時代にはインターネットという非常に便利で面白いものが普及しているらしかったが、
そんなものは今の真希にはどうでもよかった。
したがって、今の真希はただ単にキーボードを押したりマウスを動かしたりして、
次々と画面に映し出されるホームページやらなんやらを興味なさげに一瞥しているだけだった。
早く誰かが来ないか、そればかりが今の彼女の関心ごとだった。
一方の裕美はというと、自分の机に突っ伏して寝息を立てていた。
昨夜何度となくいかされたこともあって、ほとんど睡眠をとる暇がなかったからだ。
真希の服装はまったくの普段着だった。
裕美のほうはというと、部屋にあった真希の服を着ていたのだが、女子大生としてはごく平均的な服装に収まっていた。
ただ、その格好を裕美本人はどう思っていたかはわからないが。