「おいっす」
「よお」
「まったく、今日の講義も爆睡しちまったぜ」
午後の練習時間を前にして、サークルの男子メンバーが10人ほどまとまって部室にやってきた。
概してこういうサークルにやってくる男というのは女の子目当てである。
このサークルもどうやら例外ではなかったようであるが。
「あれ? 鍵が開いてるのに何で誰もいないんだ?」
彼らは一瞬だけ疑問に思ったが、特に不審にも思わずぞろぞろと入ってきた。
「お、おい、ちょっと」
メンバーの一人が何か見つけたようだ。
「ん? 晴実ちゃんじゃないか? どうした? そんなとこで…」
テニスウェアに着替えていた晴実は、部室の奥の壁際にもたれかかるような格好で座っていたのだ。
首もだらんと下げていて、まるで人形のようだった。
「おい、酒井、気分でも悪いのか? こんなところで…うわあっ!」
先輩部員が晴実の顔をぽんぽんと叩くと、晴実はその場にどさっと崩れ落ちた。
「ここここれって…」
「ば、ばば馬鹿言うなよ、そんな…」
おびえる部員をよそに、一人のメンバーが近づいて『それ』に手をやった。
「先輩、これ、フィギュアってやつじゃないですか?」
「フィギュア?」
「等身大の人形ですよ。よくアニメオタクなんかがこんなの持ってるらしいですけど」
「な、なんだ人形かよ…」
「おまえ、妙に詳しいな。実はおまえ、家にこんなの大量に隠し持ってるんじゃねーの?」
「んなわけねーだろ!」
「それにしてもよくできてるよな。しかも晴美ちゃんのフィギュアなんて…
この触り心地もまるで本物の人間みたいだし。でもなんでこんなものが部室に」
そこで、別の部員があるものに気づいた。
「お、これよく見ると後ろにチャックみたいなのがついてるぞ」
「え? どれどれ?」
「おっ、本当だ。もしかして、これって着ぐるみってやつ?」
こういう『面白い』物をみつけると、どうも男というのは遊んでみずにはいられなくなるらしい。
「おい、ちょっとおまえ着てみろよ」
「馬鹿言うなよ、俺の身長じゃどう考えても入るわけねえだろ。そうだ、こいつだったら入るんじゃねえか?」
彼は、晴実と一緒に今年入ったばかりの新入部員、斎藤徹(さいとうとおる)を指差した。
大学生になるというのに彼はとても小柄で、身長が160cmそこそこしかない。
「え、そんな、俺いいですよ先輩…」
「なになに? そうか、やってくれるか。よし、早速着てみろ」
嫌がる徹だが、背の高い先輩に簡単に引っ張り出される。
「ちょちょっと、勘弁してくださいよ…」
抵抗を試みるが、身長の差と力の差もあってあっけなく引きずり出される。
「ほら、さっさと着てみろって。え?いいから早く。ちょっと着てみるだけだろ」
先輩にせかされ、徹は仕方なく晴実の形をしたその着ぐるみを両手でつかんだ。
複雑な気持ちだった。
同い年の晴実は、徹もちょっといいなと思っていたが、ああいう子は競争率も高いだろうし、
背の低い自分なんかとは釣り合わないだろうなと半ば諦めていた。
そんな中で、この着ぐるみを着れば束の間とはいえ晴実と一つになれる、そんな気がした。
そうは言っても、同期生や先輩達が見ている前でこんなもの着るのは恥ずかしい。
その場だけでなく、後々までこのことでみんなからからかわれそうだった。
特にこのことが晴実の耳に入りでもしたら…
そんな思いが徹を躊躇させていた。
「じれったい奴だな。じゃあ俺達が着させてやるよ」
「えっ…てうわあっ!」
先輩たちが数人がかりで徹を着ぐるみの中に押し込めようとしていた。
「わ、わかりましたよ、き、着ればいいんでしょ」
「よしよし、わかればいい」
徹は覚悟を決め、着ぐるみに体を通した。
不思議な感触だった。体にぴったり張り付く感じで、違和感がまったくない。
まるで自分の体そのもののような…。
目をあけてみる。なんだか視線の高さがいつもより低いような気がする。
それに、胸のあたりにずしりとくるような感触、妙に頼りないような気がする足元…
「おおおっ、すげえ!」
「まるで本物みたいだ!」
「鏡もってこい、鏡!」
周りがやたらと騒がしい。この着ぐるみ、そんなに出来がいいのか?
「おい、ちょっと見てみろよ」
誰かが徹の腕をつかんだ。やたらと鼻息が荒い。
戸惑いながら横に目をやると、どこから持ってきたのか全身がうつせる大型の鏡があった。
そこに見える姿に、徹は言葉を失った。
そこにいたのは、紛れもなくあの酒井晴実だった。
茶髪のポニーテール、可愛らしい顔立ち、健康的な肌、それでいて魅力的な均整のとれた体つき…
「うそ…これが…!」
思わず喉のあたりを両手で押さえた。
今自分が発した声…紛れもない、女の子の声だった。
普段自分が聞いている晴実の声とはちょっと違うような気もするが…それは、間違いなかった。
「聞いたかよ、声まで晴実と一緒になっちまったぜ」
「すげえ…」
そこで、先輩の一人が徹をからかった。
「はるみちゃーん、五十嵐先輩大好き!って言ってくれーっ!」
徹は真っ赤になって言い返した。
「ふ…ふざけないでくださいよ先輩っ!」
しかし、それは男達の歓心を買うだけだった。
「おおおーーっ!」
「かわいーっ! はるみちゃーん!」
徹はもう、何も言い返せなかった。真っ赤になってうつむくだけだった。
「どれどれ、こっちのほうはどうかな?」
むにゅっ!
同級の大浦直樹(おおうらなおき)が、いきなり徹の胸をつかんだ。
直樹の手に、豊かな乳房のやわらかな感触が伝わってきた。
「おおっ、こっちも本物だ!」
「何するんだよ、直樹!」
「いいじゃねえか。お互い親友だろ。それにどうせ着ぐるみなんだし」
さらにぎゅっと胸をつかむ。
「あっ…」
徹の口から、不意に喘ぎ声が出る。
「おい、まさかこいつ感じちゃってんのか?」
「これであぶない趣味に目覚めたりしなきゃいいけどな」
「ははははは」
もう耐えられない。
徹は着ぐるみを脱ごうとした。しかし、どうやって脱ぐんだ?
それより…妙な感覚が徹を襲ってきた。
体の奥底から湧き上がるような、どす黒い欲求のような…。
それに、体が熱くなってくる…。誰かに体を触ってほしいという欲求…。
不意に、徹は頭に強い衝撃を受けたかのような錯覚に陥った。
誰かに頭を殴られたわけではない。内側から何か強い衝撃を受けたかのような…。
徹は、次第に意志の力が弱まり、体が思い通りにならなくなっていくのを感じていた。
「お、おい…大丈夫か? 徹? 悪かったよ、謝るからさ…」
うつむいたままの徹。傷ついたのかと思い、直樹は心配して声をかけた。
それで徹がゆっくりと顔を上げた。その表情を見て、直樹は一瞬後ずさった。
上気した頬を赤く染め、潤んだ視線が真っ直ぐに直樹をとらえてくる。
中身が徹だと頭ではわかっていても、晴実の顔でそんな表情をされると、直樹にはどうしようもなかった。
「おいおい頼むよ、晴実のそんな顔で見つめられたら、俺…」
その時、晴実の足が勢いよく床をけり、晴実の体が直樹に覆い被さってきた。
晴実の唇が直樹の唇に重なり、そのまま勢いで床に倒れこむ。
晴実の姿をした徹が直樹に襲いかかる格好になった。
衝撃的な光景に、男子部員達のテンションは一気に高まった。
「ヒューヒュー!」
「やっちゃえはるみちゃーん!」
「おい直樹ーっ! ここは男を見せなきゃだめだぞーっ!」
「おいおいあいつ本当にそっちのほうに目覚めちゃったのか?」
「ううむ…んっ…徹…どうしちまったんだよ…」
「んっ…んっ…晴実って呼んで…んっ…すき…」
「おおおーーーーっ!」
濃厚なキスを交わしながらのやり取りに外野から歓声が上がる。
男共の股間はさっきからもう立ちっぱなしだ。
「し、しっかりしてくれよ…徹ぅ…」
「うふふ、直樹のここはもうこんなになっているっていうのに…」
晴実に操られた徹は、直樹のズボンを一気に脱がした。
そこに現れた一物に晴実の細い指をそっと這わせる。
「ううっ…そんなことされたら…」
「かわいい…さあ、あなたの精気をあたしにちょうだい」
すでにぐっしょり濡れたパンティをひざまで下ろし、スカートを捲り上げる。
その見せつけるかのような一挙手一投足に男達は狂喜乱舞する。
そのまま自分の割れ目に直樹のものを挿入した。
徹は、自分の前で繰り広げられる淫卑な光景をただ見ていた。
自分の、すなわち晴実の目を通じてみているのだが、なぜだかそれが自分のしている行為だという実感がない。
晴実という女が直樹という男とセックスをしていて、自分はそれを遠くから見ている、そんなような感じなのだ。
ただ、晴実の体からもたらされる感触は徹に確実に伝わってきていた。
直樹の体温、自分の張っている胸が直樹にあたる感触、そして股間の感触…
今の徹は、その快感にただ身を任せ、晴実の行為に身を任せるだけだった。
「ううっ、で、出ちゃう!」
挿入の快感に、まだ童貞だった直樹はそれだけで放出してしまった。
だが、晴実はにっこりと微笑むと、
「まだまだこんなものじゃないでしょう? 直樹の全てをあたしにちょうだい」
そういって、激しく腰を振り始めた。
「うっ…ああっ…いいよっ…」
恍惚とした表情で酔いしれる直樹。
直樹の手が、上で髪を振り乱しながら腰を上下させる晴実の胸をつかんだ。