「さて、どいつらを襲おうかしら?」
裕美と佑奈は、大学のクラブハウスの中を歩いていた。
最初は佑奈が所属していたテニスサークルを狙ったが、今度は毛色の違うところを狙うつもりだった。
なぜかといわれると難しい。単に二人の気まぐれだろうか。
彼女らが今いるところは、どちらかというと体育会系ではなく文化系、
悪い言い方をすればオタク系に分類されるようなサークルが多く入っていた。
それぞれの部室を一瞥しながら、獲物を探った。
アニメ研究同好会、マイコン研究会、軍事研究会、鉄道研究会…
「いちばん楽しめそうなのってどれかしら?」
「女性に免疫なさそうなところがいいわね」
「どれも当てはまってるわ。どうする?」
「そうね…とりあえずいま一番人がいそうだから、あそこにしましょうか」
佑奈が指差したのは、一番奥にあるアニメ研究会の部屋だった。
「あの〜、すみませ〜ん」
佑奈がおそるおそる、といった風を装って入っていく。
中はアニメのフィギュアなどが散乱していて、狭い部屋をさらに狭くさせていた。
彼女が入った途端に、中にいた十人くらいの男の視線が佑奈に注がれる。
男子部員ばかりだったこの部室に女性が入ってくるということは、きわめて異例のことだったからだ。
しかも、いわゆるオタク系の女ではなく、とびきりの美人ときている。
そこにいた男全員が、まさしく見とれている、といった感じだった。
「え、えっと…どういった御用で…?」
奥にいた眼鏡の男がおずおずと尋ねる。
「あ、あの、あたし…ちょっと、ここのサークルを見学させてもらいたいな…と思って…
新歓(新入生歓迎)期間じゃないんですけど…いいですか…?」
あくまでも初めての場所、しかも男ばかりの場所に来て緊張しているか弱い女性、という役を演じる佑奈。
「あ、ああ…いいですよ、どうぞ…」
男達がささっと場所を開け、佑奈の場所を開ける。
「よかった…裕美も、来て…」
後ろの廊下に立っていた裕美を呼ぶ。
「おや、お二人でしたか、これはこれは…」
「一人でこういう初めてのところ来るのって、なかなか踏み切れなくて…」
「はは、そうでしょう、まあどうぞ座ってください」
最初に声をかけてきた部長らしき眼鏡の男と佑奈がやり取りをしている間に、
裕美は後ろ手にドアを閉め、かちゃっと鍵をかけた。
部屋の中にいる男達を、裕美はざっと品定めした。
お世辞にも美形といえるような男はいないし、女性経験も豊富とはいえなさそうな男ばかりだった。
部長らしき男が、二人の前に座る。
「えっと、じゃあせっかくお越しいただいたので、どんな活動をしているかを…」
「そんなことより、もっと楽しいことでもしません?」
彼の話をいきなり佑奈がさえぎった。
「へ? た、楽しいこと…?」
「そうよ。どうせあんたたち、ろくに女の子と付き合ったことないんでしょ?
だからあたしたちがあんたたちと遊んであげようってわけ」
二人の態度の豹変ぶりに、部長らしき男はあんぐりと口を開け、周りの男はざわめきだした。
「あの、それはどういう…」
「こういうことよっ!」
裕美は短いステッキのようなものを取り出すと、それを上に掲げた。
とたんにまぶしい光が室内をつつむ。
「うわあっ!」
「な、なんだあ…?」
「み、みえねえっ…!」
やがて光が消えた。
「あ、あなた方はいったい…?!」
「どう? 可愛い声でしょう」
「ひゃあん!」
佑奈がいきなり胸に手を伸ばす。
なぜか全身に伝わる電気ショックのような感覚に、彼は思わず声をあげてしまった。
「部、部長? ですよね…な、何で女の子に…?」
「お、俺が女? …ていうか、おまえも…そ、その格好…」
「え…?」
彼が自分の姿を見下ろすと、彼は…巫女の姿をしていた。
「そ、そういう部長は…なんで、ナース服を?」
自分の姿を見下ろすと、ピンク色のナース服に白いストッキングにつつまれた細い脚。
ご丁寧にナースキャップまでかぶっていた。
「うふふ、どんな気分かしら? 自分の理想の女性になった気分って。
体だけじゃなくて、服装までサービスしといたわよ。
それにしてもみんなどういう趣味してるのかしら?」
他にその場にいたのは…ふりふりのフリルがついたメイド服姿の女、
何かの美少女ゲームのキャラクターらしいピンク色の髪に短いスカートのセーラー服姿の女、
スチュワーデスやら女性車掌やらの制服姿…
まるでコスプレ会場のようなありさまであった。
「あらあら、みんな初心なのね。せっかく理想の女の子の体が目の前にあるっていうのに」
なかなかお約束のことを始めない彼ら(彼女ら)に業を煮やした裕美は、
「もったいないわね。じゃあその気にさせてあげようか」
ふたたび裕美がステッキを高く掲げた。
途端に体が熱くなってくる。
切なくてたまらない。誰かに触れて欲しい。体の火照りをさまして欲しい。
なぜ? わからない。どうして自分がこんなに欲情しているのか。
彼は、無意識のうちに自分の手を胸にやった。
手が先端に触れた瞬間、電撃的な快感が彼を襲う。
「あっ…!」
おもわず喘ぎ声が愛らしい唇から漏れる。
彼の手は、もう止まらなかった。情熱的に激しく乳房をつかみ、こね回す。
そのたびに全身に快感が走り、自分の口から可愛らしい声が漏れる。
それがいっそう興奮を煽り、さらに手の動きが激しくなる。
寂しい…物足りない…キスしたい…キスして欲しい…
その欲求に彼は戸惑った。どうしてそんなことを考えて…
でも止まらない…抑えられない…
ふと目の前に、彼と同じく恍惚の表情で自分の乳房を弄んでいる巫女姿の女が目に入った。
彼女は、本当は…いや、そんなことはどうでもいい。
内からとめどなく溢れてくる欲求に耐えきれず、彼は彼女の顔を引き寄せ、唇を奪った。
それが引き金になったか、あちこちでキスの嵐が交わされるようになった。
中には押し倒して体を密着させ、互いの体を愛撫する者もいた。
そんな様子を二人はニヤニヤと眺めていた。
とその時、いきなり鍵を書けておいたはずの入り口のドアが破られ、
廊下からダークスーツ姿の男達が群れをなして部屋に突入してきた。
「誰!!!」
「くそっ、何者だ!」
部員達が女体をまさぐりあっている中、裕美と佑奈は男達に向かって身構えようとした。
だが、入り口近くにいた裕美はいきなり特殊警棒のような物で後頭部を殴られ、その場に昏倒した。
裕美が引きずり出され、部員達も裕美と同じように次々と警棒で殴られ昏倒したところを連れ出されていく。
このままでは…自分も捕まる!
いくら自分が男を堕とす力を持っていたとはいえ、これではあまりに多勢に無勢。
しかも相手は容赦がない。
佑奈はやむを得ず、窓ガラスを割って外から逃亡した。