その日、結局僕は学校を早退した。保健室に僕を迎えにきた母は僕の姿を見、絶句した。
しかし、母には何か感じるものがあったのだろう、香坂先生の説明もあり僕が真実だと理解してくれた。
「ねえ真実、なにか心当たりは無いの?」
「そんなの無いよ」
「そうよね」
それ以来会話は途切れてしまった。時計の秒針の音だけがリビングに響く。
途切れた会話をごまかすように既に冷めてしまったコーヒーを口に運ぶ。おいしくない。
どれくらい経ったのだろう沈黙に耐えかねたのか母が先に口を開いた。
「転校・・・してもいいのよ」
「え!・・・」
「だって、こんな事・・・。違う学校で新しい生活をはじめた方がいいに決まってるわ。それに・・・あなたいじめに遭って
いるでしょ」
その言葉は僕にとって青天の霹靂だった。うまく隠しとおしてきたつもりでいた。しかし子供の浅知恵は母には通用していなかったようだ。
「中学校の頃から薄々は感じてはいたわ。あなたあの頃から変わった。
まるで目標を見つけたような・・・いや、復讐を誓ったような目をしていた。
確かに成績が上がったのは嬉しい。だけど真実にはたとえどんな形でも幸せになって欲しいただそれだけよ」
母さんは更に続けた。
「これは神様がくれたチャンスよ。あなたには不本意かも知れないけど」
「・・・ありがとう、母さん。・・・でもいいんだ。もう決めたんだ。それにはあの高校にいることが一番なんだ」
僕に今日二度目の涙が流れた。それは悲しみから出たものではなく嬉しさから溢れたものだった。その涙は・・・温かかった。
正直、復讐心が消えたわけではない。だが母の愛情は心の光となった。
「真実・・・本当にいいのね? つらかったらいつでも転校していいのよ」
「うん」
「ところで真実、夕飯何がいい? 安心したらおなかが空いちゃった」
「麻婆豆腐がいい」
その日の麻婆豆腐はなぜだかすごくおいしかった。
夕食を終えると僕は自分の部屋に戻りベッドに身体を横たえた。なぜこんなことになってしまったのか考える。
いろいろな考えが頭に浮かんでは消えていった。
「もう何がなんだかわからないよ・・・・」
しかし、真実の頭のあの声が頭に張り付いて離れなかった。
・・・ナンジノネガイキキトドケタリ・・・
あの声はいったいなんだったんだろうか。・・・ひょっとしたら・・いや、そんな馬鹿なあいつが何で僕を・・・わからない。
「真実、お風呂空いたわよ。もうお風呂入って寝なさい、疲れているんだから」
母さんの声が聞こえる。僕はもう考えるのをやめ、風呂に入って寝ることにした。
浴室に着くと洗面所の鏡が僕を出迎えた。昼間から時間が経ち落ち着きを取り戻した僕は自分の姿を冷静に見ることが出来た。
もともと女顔だったせいかあまり違和感は無かった。ただし、顔全体が以前よりふっくらした感じになりより女性らしさが増していた。
以前はせいぜい耳にかぶるかかぶらないか位の髪も肩まで伸びていた。
「嘘・・・」
改めて見た自分の姿に思わず息を呑む。鏡に映ったそれは正真正銘の美少女だった。
なぜだか動悸が激しくなる。思わず胸に手を当てる。そこで掌を迎えたのは柔らかなふくらみだった。
変化直後に触ったときはその存在を確かめただけだった。
改めて触れたそれは女とそういった関係になったことの無い僕にとって初めて経験する感触で掌に心地良いサイズでなんとも言えず柔らかかった。
「ん・・・くはぁ・・・んふ・・・・」
触れるうちに何か熱いものが身体の中からこみ上げてくる。それは紛れも泣く女としての快楽だった。
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・もうやめなきゃ」
僕は辛うじて残っていた理性の糸を手繰り寄せ快楽の海から自分自身を助け出した。
湯船につかる前に火照る身体を静めようと少し熱めのシャワーを浴びる。先ほどまでの火照りがお湯に溶けるように消えてゆく。
しかし太股を流れ落ちるお湯にお湯以外のものが混じっていたことは真実自身すら気づいていなかった。