「うー…」
瞼の裏に光を感じ、高遠 和泉(たかとお いずみ)は目を覚ました。覚醒しきっていない意識で見渡すのは、見慣れない部屋の天井。
(俺の部屋…じゃないよな)
ぼんやりとそんなことを思い、身体を起こそうとする。と、胸の上で何かが動いた。
無意識のうちに手をやり、払いのけようとして…和泉は凍りついた。
「…え?」
一瞬で意識が完全に覚醒した。呆然と自分の胸に乗っている物体を見つめる。
それは、どこからどう見ても胸以外の何物でもなかった。
ムネ・チチ・乳房・おっぱい。言い方はいろいろあるが、俗に言う女性の胸部がそこにある。
(…本物、か…?)
恐る恐る触れてみると、指先にしっかりとやわらかい感触。そして同時に、胸部に触られた感触。
思い切って強く掴んでみると、かすかに痛みが走った。
「ひゃっ…!?」
思わず声を上げてしまい…そこで再び和泉は凍りついた。
「声が…俺の声じゃ…」
自分の声は20代男性としてはやや高い方ではあったが、それでももっと低かったはずだ。
少なくとも、こんなあどけなさの残る少女の様な声ではなかった。
(…まさか)
その瞬間、色々な本などで読んだ、とある事柄が和泉の脳裏にひらめいた。あわてて下半身を覆ったままのシーツに手を突っ込み、股間をまさぐる。
…無い。長年慣れ親しんだ自分の分身、男としての象徴が。
代わりにあったのは、何度か女性と身体を重ねた時に見た裂け目と、そこに触れたときの得体の知れない、しかし強烈な感覚。
「…ウソ…だろ…」
思考停止した頭に、一つの言葉が浮かび上がる。ご丁寧に、ネオンの装飾で縁取りされて。
和泉の口は、我知らずその言葉を呟いていた。
「俺…女になっちまった…」

茫然自失していたのはどれくらいだっただろうか。ふと気付くと、ベッド右方向のドアからノックの音が聞こえていた。
「高遠君、高遠和泉君。起きたかね? 起きていたら返事をしてくれないか」
「え? あ…はい」
ノックと同時に聞こえた声に、和泉が反射的に答えてしまう。
「失礼するよ」
言って入ってきたのは、長身長髪の青年だった。伸ばした銀髪をゴムでまとめ、後ろに流している。
痩せてはいるがしっかりと筋肉もついているらしく、ひょろっとした感じはしない。
「まぁ、色々と言いたい事、訊きたい事があるだろうが…まずは服を着てくれないかね?」
そう言うと、かれはベッドサイドのテーブルを指し示し、背を向けた。言われて初めて、和泉は自分が全裸であることに思い至った。
「あ、はい…」
未だに全く状況が飲み込めていないが全裸というのも恥ずかしいので、素直に従っておく。
もぞもぞとベッドから這い出して服を広げ、白いワイシャツに袖を通す。次いでカーゴパンツに足を通そうとし、
「わっ…とっと…うおっ!」
上手くバランスが取れないのか、派手にコケた。
「痛ってぇ…」
「気をつけたほうがいい。まだ身体の感覚が馴染んでいないのだろう」
青年から言葉が飛んでくる。その内容に眉を寄せつつも、和泉はベッドに腰掛けてカーゴパンツを身につけた。
「さて、まずは順を追って説明していこう。長いが、全て説明する。私の名はレイ・アルカーディス。レイ、と呼んでくれて構わない」
そう自己紹介すると、青年…レイは持ってきたコーヒーに口をつけた。
「君の名は高遠和泉、11月5日生まれ、去年で二十歳になった。覚えているね?」
「ああ…」
「そして、君は半月前に…死んだ」


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