「う・・・ん」
 朝日が降り注ぐ病室、その白いベッドの上僕は目を覚ました。
 「此処は・・・僕は助かった・・・のか?」
 僕は自らの置かれた状況を飲み込めなかったが辺りを見回すとベッド脇の椅子で眠っている一人の男を見つけた。
 「この人はたしか・・・じゃああれは夢じゃなかったんだ」
 僕がそうつぶやいた瞬間、男は僕に抱きついてきた。
 「ちょっ・・・杉田さん放してくださいよ杉田さん! 僕ですよ、鈴木恵一ですよ」
 僕がそう言うと男、杉田は顔を上げ、そっと離れた。
 「ふう・・・やはり意識は脳の方か・・・・、おめでとう鈴木君、脳移植は成功したようだ。どうかね今の気分は?」
 「なんか変な感じです。全身に違和感があるというか・・・当たり前ですね他人の体ですからね。ところでこの体はどんな人なんですか?」
 僕は誰もが思う疑問を口にしてみた、それにさっきの杉田の態度も単なる研究者のものではなかったように思える。
 「知りたいか?」
 僕がうなずくと杉田はだまって一枚の書類を取り出した。そこには一人の少女のプロフィールが事細かに記されていた。
それによると少女の名は『杉田 恵(すぎた めぐみ)』2001年2月14日『杉田一樹』、『杉田 薫』の長女として生まれる。
2016年交通事故により脳死状態になる・・・・そう記されていた。
 「なっ・・・まさか女? それに・・・杉田・・・杉田さん! まさかこれは」
 「そうです・・・私の娘です。私は娘を・・・生きている娘を一目見たかった。たとえその意識が娘自身でなくても。
そのために私はこのプロジェクトに参加し、娘の身体までも提供したんだ」
 「まさか女になるとは・・・なんであの時に言ってくれなかったんですか。これじゃあ妻には・・理恵には・・・もう・・・」
 僕は杉田につかみかかって罵声を浴びせ続けた。
知っている限りの罵声を浴びせた頃には、もう涙しか出るものはなくなっていた。そして杉田が重い口をあけた。
 「すまなかった。だが・・あのまま放置したら君が死んでしまうということと、君だけが恵の身体に適合していたことだけは本当だ。
それだけは誓って嘘は言っていない」
 「じゃあせめて理恵のそばにいることができる立場を用意してくれ、あんた達は国の機関だろ」
 「わかりました。一応、恵は戸籍上は生きていて今年で22歳です、理恵さんと同じ会社に入社させる。それでどうでしょう。学歴や入社試験は何とかしま す」
 僕はそれが今の自分が理恵と一緒にいられる唯一の立場だと自分を納得させることにしたが次にはもうひとつの不安が出てきた。
 「ところで僕はこれからどう暮らせばいい?」
 「鈴木さんはもう亡くなられたことになっていますので『杉田 恵』として暮らすことになります。
術後の経過を観察する必要もありますので私と同居・・・ということですね。
そうそう、一応この手術は非公式なものですので周囲には伏せておいてください」
 「こんなこと絶対信じるやつなんているかよ」
 「それと・・・明日には退院ですので準備しておいてくださいね。・・・恵さん」
 「はいはいはい」
 もう僕は半分やけになっていた。

 翌日。
 僕は杉田の運転する車の助手席に座っていた。
理恵やほかの同僚にどう顔をあわせればいいのか、女としての常識もないまま僕の『女』としての生活が始まろうとしていた。


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