車を降りると3月の温かい空気が僕を出迎えた。
もちろん杉田の家で車に乗り込むときもその空気を味わっているのだが、街中という公の場が生まれ変わったという実感と共に感じさせているのかもしれない。
それにしても足元が落ち着かない。その原因は・・・・・そう、スカートだ。ズボンと違い外気が直接下半身に当たっているような感じだ。
僕はなんとなく女性がストッキングを穿く理由がわかった気がした。今朝はわけもわからず身支度をしたため太ももが剥き出しのままだ。
それを意識するとどうしても歩き方がぎこちなくなってしまう。杉田もその不自然さに気づいたのか声こそかけないがしきりにこちらの様子を窺っている。
あからさまに挙動不審だ。まずストッキングを買おう。それまでは・・・・我慢するしかないか。
そうだ、今自分は(肉体的には)16歳の女の子なんだ、生足で歩いていてもおかしくない・・・・そう思い込もう・・・。
僕は自分を納得させるために自分に嘘をつきとおすことにした。いささか強引だが・・・・今だけだ。
売り場に向かいながらこれからの生活に必要なものを考えた。が、考えながら一つの疑問が頭をよぎった。
「あの、杉田さん」
「ん? なんだい」
「僕、あの事故でほとんどお金を無くしちゃったんですけど買い物の支払いはどうするんですか?」
僕がこの疑問を口にすると杉田は笑いながら答えた。
「あははは・・・、なんだそんなこと考えていたんだ。それなら心配ない、このプロジェクトは国家プロジェクトだ。
当然被験者の生活支援も予算に組み込まれている」
そう言うと杉田はおもむろにバッグから1枚のキャッシュカードを取り出した。
「これは君の物だ、昨日渡そうと思っていたのだが忘れていた。当面の生活費として使ってくれ。
それと・・・私を頼ってくれてかまわないからな」
・・・後半の言葉は聞かなかったことにしよう。
お金の心配が消えたところで僕はもう一度買うべきものを考えた。まずさしあたっては会社に着ていくスーツだろう。
ほかの衣類はクローゼットに一通りあったから大丈夫だ。まあ、多少少女趣味すぎたから落ち着いたら少しずつ買うことにしよう。
あとは・・・仕事で使うPCと・・・そのくらいか。僕たちはとりあえず婦人服売り場に向かった。