「いよぅ、日々木。昨日は良く眠れたか?」
 ピシッと手を上げながら、ボサボサ髪の少年が、肩にかかるかかからないかくらいの長さの黒髪を持った顔見知りの少年を見て、そう声をかけた。
「は、おかげさまでな」
 一瞬動きを止め、その髪を振りながらそのツリ気味の目を声をかけてきた青年に向ける。
なんか、寝起きみたいな気味悪い目が、その言葉が全然まったくの虚偽であることを物語っている。
 声をかけたほうの少年は佐竹京也(さたけきょうや)。かけられたほうは高梨日々木(たかなしひびき)という。
「まぁた夜遅くまで特訓かぁ? 熱心なものだな。少しは勉学と健康に時間を割いたらどうだ」
「うるさい。こんだけやったって未だに貴様に勝ててないじゃないか。これで特訓時間を減らしたらどうなっちまうんだ?」
 イライラと前髪を掻き毟りながら威嚇するような表情で京也を睨む。
別に恨んでるわけではないし、憎悪を向けているわけでもない。長い付き合いだから京也も簡単に受け流せる。
「さてな。その不健康がお前のマイナス要因になってる気もするがな」
「……言ってくれる」
 再び日々木が寝ぼけ眼で京也を意味もなくねめつけていると、不意に背後から声がした。
「今日はいつにも増してクサクサしていますね日々木君! そんな君に愛の電撃をプレゼントだ!」
 その声とともにこなきじじいよろしく日々木に負ぶさってくる何者か。
日々木にはそれが誰なのか痛いほど良くわかっていたし、それゆえに、いやな予感を通り越して確信が彼の体を駆け抜けた。

 バリバリバリィッ!!!!!

「いぎゃあああああ!!!!」
 いやな確信にバトンを渡すかのごとく、続けて走ってきた体中がしびれる感覚。彼は文字通り電気に打たれたのである。
「ふっふっふ……ロクに寝てないから私の気配にも気がつかないのだよ、日々木君」
 しびれながら日々木がかろうじて首を上げると、茶色がかった髪の少女が勝ち誇ったような顔で日々木を見下していた。
「てんめぇえ……んなほいほいと力を使うなって、何度言ったらわかんだよ……」
「ふっふぅん。そうでもしないと私では日々木君にイタズラできないではないか……」

 ニヤリと微笑みながらどっかの名探偵みたいにあさっての方向を向きながらアゴをいじるこの少女の名は豊島一与(とよしまひとよ)。
この町の寂れた道場の一人娘であり、その道場のたった二人の門下生が日々木と京也なのである。
幼馴染と十分に言える年代からの付き合い。そんな関係だ。
 まぁ、事実、寂れているのは既に一与の親父が職務を放棄しているからであって、
昔は人がいなかったわけでもないがとにかく一与の親父は只今建設業に従事していて、
道場は、最早京也と日々木という一組のライバルの決戦場としてしか使われてはいない。
 まぁ、それはともかくこの娘、電撃を出すという特殊能力を備えている。日々木は毎朝その餌食になっているわけだ。
『どこぞのジャンクキッズの帝王じゃあるまいな、あいつ』なんてコメントを高梨日々木は残している。
 一応彼女の力は、京也と日々木しか知らぬことだが、周りを見ていると、どうもそうめずらしいことじゃないんじゃないかという気がしてくるのだ。
みんな隠してるだけで、ホントはみな一芸を隠し持ってるんじゃないかと。
 根拠は、京也と日々木も似たような力を持ってるからだ。
ゴキブリ的計算式、一匹いたらその近くに五十匹はいる、を適用すると、その数実に150オア48。
まぁ、ゴキブリの尺度を持ち込んでくるのはどうかと思うけど。
「一与ぉ」
 脱力したように転がっていた日々木が、突如声を上げる。
「何よ」
 飽きもせず見下ろしていた一与が素で返事する。
「……青のストライプ」
 その言葉を聴いた瞬間に、一与の顔が真っ赤になり、日々木の頭をゲシゲシと踏みつけんとする。
 だが、日々木もさるもの引っかくもの。ごろごろと転がって踏みつけ攻撃を回避する。
「みーたーなぁぁぁ!!!」
「んなとこに立ってんのが悪いんぢゃないかぁ!?」
 日々木と一与はそうやって激しくバトりながら、通学路を高速で駆けていった。
「まったく……毎朝毎朝飽きもしないねぇ。あいつら……」
 一人取り残された幼馴染NO.3京也はその光景をどこまでも微笑ましそうに見つめているのだった。
 だが、このときその光景を見つめていた人間は、彼一人ではなかったのだ。

 チャイムが鳴り、HRも終わり、人によってはすこぶる退屈な、授業が始まる。
 この学校は最近質が低下中の悩める進学校系高校であり、日々木らはその一年生だ。三人そろって一年七組。
「そこで、登場するのがこの塩化コバルトで―――」
 あー……眠い。
 日々木は虚ろな目をたたえて、かろうじて意識を現世につなぎとめていた。
 やっぱ昨日、まともに寝てなかったからかなー……。
 そんな思考が日々木の頭を去来する。
 そういや京也の奴、勝てねぇのは、不健康が原因だとか言ってたしなぁ……。まぁ、負けてるわけでもねぇけど……。
 そこまで考えたところで、日々木にひとつの名案(と言うほどのものではないが彼には心からそう思えた)を思いついた。
 そーだ、ここは一つ、このまま寝ちまうか……。
 人間の三大欲求の一つ様にはかないませんかなぁ……。
 それに、昨晩は特訓してて、今、睡眠をとれば、それはとても理にかなったことではあるまいか? これなら奴にも勝てるかも知れんなぁ……。
 とかなんとか理由付けして、日々木はその意識を混濁の海へと落としていった。

 当たり前だと思っていたことが、当たり前にめぐってこなくなることなど…………約一名ほど夢に見たくらいだったかもしれない。


[トップページ] [NEXT]


楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル