「着終わったら、次はオプションだ」
ヒゲダルマは、意味ありげに口の端を吊り上げた。
「オプション?」
シャツのボタンを留めながら、ルカは問う。
「まあ、見ればわかる」
そう言って、ヒゲダルマは衣装箱からひとつの赤い物体を取り出した。
背中に背負うタイプの、赤い皮製のカバン。つまり。
「………ランドセル?」
「そうだ。その体は、リミッターを外せばほぼ無敵とはいえ、さすがに不安定すぎるのでな。オプション装備を用意した」
「いやそれはいいんですけど、何でランドセルなんです?」
得意げに説明するヒゲダルマに、ルカはほぼ完璧な答えを予測しつつも、尋ねた。
「無論、ょぅι゛ょだからに決まっている」
やっぱり、とルカはため息をついた。
どこの世界に赤いランドセルを背負った諜報部員がいると言うのか。
ルカの嘆息には気付かず、ヒゲダルマは解説を続ける。
「このランドセルには色々と便利なツールが入っているわけだが……。まあ、それの解説はおいおいこいつに聞いてくれ」
ヒゲダルマはそう言って、ランドセルをこつんと叩いた。
「おい、起きろ」
「アンダヨー。モウスコシネセロヨアホー」
ヒゲダルマの呼び声に答えて、ランドセルの中から妙に金属的な声が発せられた。
ルカは、何のことやらわからずに首をかしげ、ランドセルをじっと見つめた。
かぱり、とランドセルの蓋が内側から開く。
「ヨォ。オマエガオレノアイボウカ?」
そう声を上げたのは、ランドセルから飛び出した黒い体に黄色いくちばしの鳥。九官鳥だ。
「オレハ、さぽーとめかノ『キアシュ』ダ。コンゴトモヨロシク」
キアシュと名乗った九官鳥は、軽く右の翼を振って、人間のように一礼して見せた。
そして、唖然として自分を眺めている幼女に尋ねる。
「デ、オマエサンノナマエハ?」
「あ、あー、私はルカ。ルカ・カーン。よろしく」
まさか九官鳥に向かって自己紹介することになるとは、などと思いつつ、ルカは挨拶を返した。
「るか。オボエター」
「こいつは君の脳とリンクしている。意識すれば、頭の中だけでの会話も出来るし、必要な情報を随時引き出すことが出来るようになる」
ヒゲダルマはそう言って、キアシュの頭をチョンとつついた。
「はあ……」
そう言われてみても、鳥と思考のやり取りをするなど、ルカにとっては現実味が薄く、ピンとこない。
「まあ、それも必要に応じて使い方がわかるはずだ。基本的なことは、その脳に入っているからな」
ヒゲダルマはそこで言葉を切って、軽く咳払いする。
「さ、そういう事は後でどうにでもなる。肝心なのは、ランドセルを背負うことだ」
「いやいやいや、そこは肝心じゃないっ!」
「アイカワラズぺどふぃりあダナ、ヒゲ」
ルカのツッコミに続くキアシュの言葉は、容赦が無かった。
「なにが悪い」
ヒゲダルマは開き直った。
「このランドセル自体にも色々仕掛けがしてあってな。君が任務を遂行するためには絶対に必要なんだ。君を、守るためにも」
そう言って、真剣な表情でルカを見る。
顔中がヒゲで覆われているため、かえって目だけが際立ち、ルカはそこから視線を外すことができない。
「……っ」
心臓が小さく跳ねた。
ルカの小さな体は、それだけでも震えが走り、頬が赤くなる。
どうしてこの体はこんなに敏感なんだろう。
本来の体なら、どんな危機にも顔色ひとつ変えない耐性があるのに。
あ、意外に目はきれいだ。
ひょっとしたらヒゲをそり落とせば美男なんじゃないかなちょっと待てなにを考えている私は男だぞああでも『お父様』くらいは呼んでやっても……。

「ダマサレルナアホー」
体はおろか思考の中までもコントロールを失いそうになったルカの頭を、その頭上で羽ばたくキアシュがつついた。
「てっ!」
泥沼に沈みかけたルカの思考が、現実に浮上した。
「ふう」
一息つくと、考えをまとめる。
「仕方がありません。ランドセルが必要なのは、認めます」
「まあ、わかってくれればいい」
そういうヒゲダルマの顔は、少々不満そうだ。
視線攻撃に失敗したせいだろう。
「もう少しで『お父様』を認めさせられたのに」
そう嘯くのを聞いて、ルカは背筋にぞくっとしたものを感じた。
「クワバラクワバラ」
キアシュがルカの肩に止まって、一声鳴いた。


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