正樹達がやって来る一月程前、この建物に女性化実験の最終テストとして連れて来られ、女となった一人の男がいた。
名前は秋彦、正樹達の通うN高校の3年4組の男子高校生だった。
「・・・う・・・?」
カーテンの隙間から入る光を感じ、ゆっくりと秋彦は目をあけた。
天井をしばし見つめ周囲を軽く見渡す。それから再び目を閉じてもう一眠りしようとした時、脳がある異変を感じた。
周りの様子がおかしい。
そう考えがまとまった途端、眠気が吹き飛び、体が一気に覚醒した。
「!」
布団を跳ね上げて上半身を起こし、再度辺りを見渡す。
一つの窓、自分がいるベッド、丸いテーブルとイスが一つあるだけの殺風景な部屋。
明らかに、物がごちゃごちゃと積み重なっていた自分の部屋ではなかった。
「どこだ・・ここ・・・?」
そして秋彦は部屋だけでなく、自分の身に起こっている異変にも気づき始めた。
声が妙に高い。自分の声はもっと低いはず。
「あれ・・?」
声の調子を整えようとするが治らない。
風邪かとも思ったがそんな感じではなかった。
次に目がいったのは軽く重みを感じる胸だった。
見下ろした先に何かあるがよく見えない。
「あっ! 眼鏡眼鏡!」
その時になって自分の目が悪いことを思い出し、枕元に置いてあるはずの眼鏡を手探りで探す。
「・・・あった!」
指の先に触れた眼鏡を掴むと、向きを合わせて顔にかける、が、すぐにずり落ちてきてあわてて指で押さえた。
(俺の眼鏡じゃないのか?)
しかし視力は安定している、形も色も前から使っているものだった。
片手で眼鏡を押さえつつ胸を見下ろす。今度はくっきりと、二つの小さな丘が見えた。
「・・・・胸?」
空いている手で触ってみる。手の中におさまってしまう大きさ。
妙な好奇心が出て、ためしに軽く揉んでみた。
「んっ・・・うん・・」
体に軽く電気のような刺激が走った。
「・・・はっ! んな事してる場合じゃない!」
胸を触っていた手を離し落ち着こうとした矢先、今度は布団で隠れている下半身に目がいった。
(まさか・・そんな事あるわけないよな・・?)
自分に言い聞かせ、おそるおそる布団をめくる。
そこには陰毛どころか、確実にあるはずの性器が影も形も無くなっていた。
不安は的中した。自分の体が変わっている。
先ほど胸を揉んだ時の気持ちよさなど掻き消え、恐怖と混乱が全身をつつんだ。
「なんなんだよっ!一体何がどうなってんだよ!」
頭を押さえたりして慌てふためいていると、視界の隅に等身大の鏡があるのが見えた。
ベッドから降り、駆け足で鏡の前に立つ。
そこに映し出されたのはショートヘアの黒髪、小ぶりだが形の良い胸、引き締まった腰、はりのあるお尻、
スラリと伸びた脚、そして眼鏡をかけたかわいらしく整った顔、どこからどう見ても女の子だった。
「うそ・・だろ・・」
鏡に手を触れる。鏡の中の少女も同じく動く。
女になったそれがあまりにも衝撃的すぎて、ここがどこであるということ、何故か裸であるということなど消え去って
しまっていた。
「う・・・うわあああああああああっ!!」
秋彦の叫び声が部屋中に響いた・・・