◆注意
この話は本編の本来の展開とはまったく全然これっぽっちも関係ありません。
俺が書きたかったから書いた。今は猛烈に反省している。

IF STORY

あれから町中を歩いて翔のことを探し回ったが、結局見つけることが出来ず、日付が変わる頃に帰宅した。
翔が帰ってきたのは朝方だったように思う。
台所で翔のことを待っていたのだが、睡魔には勝てずにいつのまにか寝てしまっていたので正確なことは分からない。
ただ起きたら目の前に翔が立っていた。
暗い台所に1人で…
俺は翔にとりあえず謝ったのだが、「別にんなことはどうでもいい」と言われた。
許して貰えたのかどうかは正直分からない。
それとその日、翔は学校を休んだ。なんでも、制服が汚れたから今日は着ていけない、ということだった。
いったい何をしていたのか…
あんまり追求しても悪いから、俺も翔に断りだけ入れて学校に行った。
なんとなく翔のことが気になったのだが、俺も学校を休むわけにはいかなかったので…まあ、学生の義務だからな。

そしてその日、俺に奇跡としか言いようのない出来事が起こった。
授業も終わり、帰ろうとしていた俺は前田さんに声をかけられた。何だろう?と思い前田さんについて屋上まで行くと…
「実はその…あのね…わ、私は、あ…小山くんのことが…す、好きなんです!」
その時は夢を見てるんだと思った。
当然だろう学校一の美少女と名高い前田さんが何で俺なんかのことを好きだと言うんだ…あり得ないだろ。
俺が告白することはあっても向こうから告白されるなんて絶対に無い、と思っていたからだ。
が、それが夢ではないのだと次の瞬間思い知らされた。紛れもない現実だった。
俺は正直な話、嬉しいとかいう気持ちより驚きの方が大きかった。
大きかったのだが俺にその告白を断るような理由は当然なく、一瞬だけ、何故か翔の顔が浮かんだが、それもすぐに消えた。
そうして俺と前田さんは付き合うようになった。

帰った後、夕食の時に翔にその話を聞かせてやった。その時の俺は有頂天で誰かに話したくてしかたがなかった。
とは言っても、誰でもって訳にはいかなかったのだが、ちょうど家に帰ったら翔がいたので、思わずばっと話してしまった。
すごく嬉しかった。まさか前田さんに告白されるなんてホント夢にも思っていなかったのだから。
あんな可愛い子に…
てっきり翔にこんな話をしたら、また「からかわれてるのが分かねえのかクズ」とか「うぜえからもう黙れ」とか言われると思ったのだが、
意外にも翔は真剣に聞いてくれた。
変なチャチャを入れずにただ黙って真剣に…それでただ一言「良かったな」と言ってくれた。

『おーい、翔入るぞ?』
夕食後、俺は翔の部屋に呼ばれていた。
何の用事があるかは分からないが、俺を自分から部屋に呼ぶなんて初めてのことだったので、よほど重要な話でもあるんだと思う。
『おう、いいからとっとと入れ』
了解が出たのでドアを開けて部屋の中に入る。
翔の部屋は以前ほど散らかってはなく、夢の島と言うほどのものではなくなっていた。
やっぱり女の子になったからかな…?
あんま関係ないか。何にしろ部屋を片付けるのはいいことだ。うん。
『どうしたんだ? 俺を部屋に呼ぶなんて…何かあったのか?』
翔は窓の縁にもたれ掛かって外を見ていた。もう秋なので窓から涼しい風が部屋の中に入ってきている。正直寒い。
『ちょっと見て欲しいもんがあんだよ』
そう言って翔は俺を手招きする。どうやら窓の外に気になるものでもあるみたいだ。
いったい何があったんだ?
俺は疑問を抱えたまま、言われたとおりに窓のところに行く。風に揺られたカーテンが頬にあたった。
『何かあるのか?』
そう言って窓の外を見る。う〜ん、これと言って別に何もないと思うけど…
『ホラ、あれだよ、あれ』
そう言って翔は身を乗り出し、遠くを指さす。
どこだ? どこにあるんだ?
『う〜ん?』
俺も一緒に身を乗り出して目を凝らす、と…

“ドン”

―――え?

瞬間、視界が反転する。景色が変わる。
地面と空が反対になる。世界が反転する。
俺は落ちているみたいだ…
落ちる、堕ちる、おちる、………何で?

目線の先には窓が見える。あれは翔の部屋の窓だな。そこには人見える。あれは翔だな。
さっきの背中に響いた衝撃は……誰かに押されたのか?
そっか、俺は突き落とされたのか………誰に?

“グシャァ”

両腕の骨は折れ、右足は複雑骨折。完全に骨がくっつくまでには約1ヶ月ほどかかるらしい。
あの後、痛みで意識が朦朧としている俺は救急車のサイレンを聞いた、と思う。
気が付くと翔が俺に覆い被さって泣いていた。翔の涙を見るのは初めてだった。
2階の高さから落ちてこのケガとは…運が良かったのか悪かったのか…
頭だけは無意識のうちに守っていたらしく、傷と言えるようなものはなかったのだが。
なんせ咄嗟のことで俺に受け身なんてものがとれる余裕はなかった。

もうすでに入院生活5日目。さすがに手足がまともに動かないのでは大人しく寝ているより他はない。
家に帰れるのも…だいぶ先のことになりそうだ。ま、もうしばらくは親も帰ってこないわけだし…いや、どっちにしても同じか…
ああ、それと学校の方には翔が連絡してくれたそうだ。
さすがに無断で1ヶ月も休むわけにはいかないだろう、と思ってくれたらしい。
それは助かった。しかしだからといって欠席日数がチャラになるわけでもない。
俺が今までほとんど学校を休んでなかったってのはホント助かった。
おかげで1ヶ月休んでも進級とかにはまったく関係がないみたいだ。
学校の勉強はだいぶ遅れるけどな…順次にノート見せて貰わなくちゃ…
それと担任が口を滑らせたらしく見舞いにも何人かが来てくれた。
稔に順次、そしてクラスの連中も数人。
そして前田さんも…
嬉しかった。嬉しかったのだが…

ふとベッドの脇の時計を見る。5時を過ぎたところだった。そろそろか…
“ガチャ”
病室のドアが開く。制服姿の女の子が入ってきた、何時も通り。
『よう、元気だった?』
そう言ってベッドの横の椅子に腰掛け、俺の顔を覗いてくる、何時も通り。
『こんな姿で言うのもなんだけど…元気だな』
手にも足にもギプスをつけ、更に足は吊ってある。
身体的にはとても満足いくような状態ではないけれど、体力的に元気なのは確かだ。ずっと寝てばっかりだからな。
『それだけ言えれば充分だね。今日は何も持ってきてないけど、ま、我慢して』
確かに今日はなにもお見舞いの品はないみたいだ。鞄以外には何も見あたらない。
何時もはなにかしら持ってきてくれるのだが…まあ、そっちの方がいいか。
俺なんかのために余計なお金を使う必要はない。
『今日は学校どうだった?』
『ん? 別に…変わりなかったよ。普段通りだった』
まあ、そうそう大きなイベントなんてあるもんじゃないからな。日常ってのはそんなもんだろう。
“ガチャ”
『小山くん。ご機嫌はいかがしら』
病室のドアが再び開き、また人が入ってきた。
『まあ、そこそこ元気です』
この人は片岡先生。俺の担当である女医さんでけっこう美人。
つうか俺は今時女医さんなんてあまりいないだろう、と偏見を持っていたのだが、現実ってのは案外分からないものだ。
『あら、翔ちゃんも来てたの? いつもご苦労様ね』
俺の隣に座っていた少女…翔を見つけた先生は声をかける。
この2人はすでに顔なじみになっていた。毎日会ってるからな。
『こんにちわ』
翔も先生に挨拶する。
『本当にお兄さん想いの妹さんね。小山くんは幸せ者だわ』
『ははは、まあ…』
俺は苦笑する。確かに毎日学校が終わると何時もお見舞いに来てくれるのだから兄想いの妹なんだろう。
それにお見舞いの品もよく持ってきてくれるし、果物を林檎を剥いてくれたりもする。
翔は案外手先が器用だったみたいで、料理とかもうまいのかもしれない。
『ええ、たった1人のお兄ちゃんですから』
お兄ちゃん…か。
世間では俺は足を滑らせ自分から転落した、ということになっていた。
唯一の目撃者である翔が証言してるんだし、何より俺自身がそう言ってるんだから間違いはない、と思われている。
いや、間違いはないのだ。

俺は1人病室で考えていた。なんであんなことになったのかを。
確かに翔が俺に怒っていたことは確かだった。俺には理由が分からなかったが…それにそれはもう終わったことだと思っていた。
俺には結局分からないままだった。翔本人から訳を聞くまでは…

「気づいていなかったみたいだけど、俺は女になってからずっとお前のことが好きだったんだぜ」

「前田がお前のことが好きなのも知ってた。なんせ俺が本人から訊いたんだからな。
…俺と前田では勝負にならないと思ったから…素直に身を引こうと思った。
でも…お前があんまり嬉しそうに話すもんだからよ。…我慢できなかったんだわ」

「その体じゃしばらくはなんも出来ねえわな? だから俺が面倒みてやるよ、前田にかわってな。ねえ?“お兄ちゃん”」

つまり悪いのは俺だった。翔の気持ちに気づいてやれず、いくら知らなかったとはいえ翔の前であまりに非道いことをしてしまったのだ。
そう、悪いのは俺だった。全部俺だった。だから本当のことは言わなかったし、俺自身信じたくはなかったのかもしれない。
「翔に突き落とされた」なんてことは…

しかし嫌でも思い知らされた。
2日前まで、前田さんは毎日お見舞いに来てくれていたのだが、俺が前田さんに多少キツイことを言って帰してから、彼女はお見舞いには来てない…
せっかく俺のことを心配して来てくれていたのに…悪いことを、本当に悪いことをしたと思う。
でも怖かった。俺が前田さんと話しているとき、1人、無表情で林檎の皮を剥いている翔が…
何を言うでもなく、何をするでもなく、俺のために林檎の皮をシュルシュルと剥いている翔が…
果物ナイフがなかったからと包丁で皮を剥くその姿が何故か怖かった…

『そう言えば最近、前田香澄はお見舞いに来ないね。どうしたんだろうね?』
俺の考えてることを見透かしたのか翔がそんなことを言ってきた。
だが来ないのは当然だ。俺が追い返したんだからな…
『ふふ。彼氏に少しくらい非道いこと言われても、あの子なら構わずお見舞いに来てくれそうなのにね。
よっぽどショックだったのかな…それとも、他に来ることができない理由が出来たとか?』
……確かに、言われてみれば…前田さんなら俺が非道いこと言っても、それでも来てくれるのかもしれない…
いや、でも実際来ていないじゃないか…実際に…
『まさか…』
『たとえば……ふふ、誰かに歩道橋の階段から突き落とされたり…』
……な!?
『もしかしたら、意識不明の重体だったりしてね?』
そ、んな…
『でも、クラスの連中は一言もそんなこと…』
『ここ、2日ほどは誰も来てないから、分からないよ? それに意識不明の重体だよ。家族が学校の方にはふせていてもおかしくはないよね?』
でも、そんな、こと…
『あはは、冗談だよ、冗談冗談。顔真っ青にしちゃってさ。まったくお兄ちゃんは冗談通じないよね』
『そ、そうか…冗談か…はは、そうだよな。冗談だよな…』
そうだ。そんなこと冗談に決まってる。
『…たぶん、ね?』
翔は棚に置いてあったリンゴを器用にシュルシュルと剥く。
シュルシュル、シュルシュルと…

BAD END


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