次に意識が戻ったとき、頭上には銀色の月が浮かんでいた。
アデルは古代の廃墟に横たわっていた。
月光に照らされた青白い肌に、アデルは魔性となった己の身を呪った。
異形の姿で人里に近づくわけにはいかなかった。魔性は“夜の住人”とも呼ばれる。
いまやアデルの住処は夜の闇の中にしかないのだ。
折れた木の枝で喉をついて自害しようとしたとき、カーミラのあざけり笑う顔が脳裡に浮かんだ。
「そうだ……オレはあの魔女を滅ぼすまで、死ぬわけには……」
アデルはかすかなさざ波の音を耳にしてそちらへ足を向けた。
廃墟からほど近い場所に湖があった。その湖面に映った妖しくも美しい女の裸身が、アデルを苦悩させた。
ふと喉の渇きを覚えたアデルは水辺にひざまずいて手に水をすくった。
だが、水を口にしてもいっこうに渇きは収まらない。むしろ、ひどくなってくる。
ズクンッ……
体の奥で生まれるせつない疼き。
アデルは悟った。喉の渇きと思ったのが、じつはあの疼きと同質のものだと。
(欲しい……欲しい……欲しい……)
人ならぬ身の餓えがアデルの体と心を苛んだ。
(欲しい……何が……何を……?)
(男の精……)
カーミラの言葉が甦り、アデルは必死でその言葉を頭から追い出した。
それだけは。それだけは、絶対に許してはいけない。
いくら魔性に変えられたとて、そんな浅ましい真似だけはすまいとアデルは思った。
だが、アデルの心と裏腹に淫らな女の肉体は、疼きに支配され、秘奥を熱く濡らしていった。
どんなにアデルが否定したくても、肉体から欲望を消し去ることはできない。

(男の精……舌に乗せたら……どんな味がするだろう?)
アデル本来の心に混じって、そんな淫らな思考がいくつも泡のように浮かんでは消えていく。
いつしかアデルは腿の付け根からそっと秘所に手を忍ばせていた。
頭でどんなにその行為を止めようとしても、ひとりでに体が動くようだった。それほど強烈な“餓え”だった。
(ああ……欲しい……)
くちゅっ、くちゅっ。
すでに充分すぎるほど潤っていたそこに、アデルの指はするりと呑み込まれていった。
一本、二本……。肉の襞はむさぼるように指にからみついた。
熱をおびた蜜壺に深く指を埋めていくと、ひととき欲望が満たされ、疼きを忘れることができた。
だが、しばらくすると揺り返しのように、さらにひどい餓えがアデルを苛むのだった。
“魔性としての摂理に逆らうのもアデルの自由。
長く苦しむかもしれないけど、誰とも交わらなければいつかは死ねるわ”
カーミラはそう言っていた。
しかしアデルの身を焦がす強烈な餓えは、人間だったアデルの想像を絶していた。まさしく魔性の餓えだった。
どんなに意識を集中して秘所をまさぐる手を止めようとしても無駄だった。
それどころか、もう片方の手は自然と乳房を揉みしだいていた。
なくなったペニスの代わりに、固く勃った乳頭が手に当たると、目もくらむほどの甘い感覚がそこに生まれた。
「くそう……なんで、止められない……ふぁうっ」
水辺に身を横たえ、いつ果てるともしれない自慰を強要されるアデル。
その痴態を、はるか遠くでカーミラはクスクスと笑いながら眺めていた。
使い魔であるアデルの見たもの、聞いたもののすべては、主であるカーミラのもとへ届くのだ。
(見られてる……けど……やめられない……)
屈辱と無力感にアデルは震えた。
リズミカルに秘所へ指を出し入れするうち、階段をかけ上がるように快感がふくらんだ。
そしてある一線を越えたとき、アデルは夜の静寂に淫らな嬌声を放って絶頂に達した。
男の絶頂とはまったく違う。
洪水が体ごと自分をどこかへ流し去ってしまうような、深く圧倒的な体験だった。
絶頂の波がようよう引いていったとき、はじめてアデルの身に自由が戻っていた。
まだ体の奥には癒されないあの餓えの源が残っている。それでも、当面はそれを押さえ込んで動けそうだ。
アデルは湖の水に浸かり、火照った体を鎮めた。
湖からあがると、ちらちらと燃える火が目に入った。
松明だった。それも、複数──。
「へえ。こんな水音がするからきてみたら魔の女かよ。……こいつはとんだ掘り出しモンだ」
身なりからしてまともでない男たちだった。おそらくは山賊や追い剥ぎの類だ。
「お前ら。この魔性がおかしな真似したら、すぐに叩き斬っちまえ」
「了解だ、親父殿」
「へへ……」
親父殿と呼ばれた濃い髭面の男がアデルに迫ってきた。
「来るなっ!」
「ほう……人間の言葉を喋るのか。こいつは〈魔道士通り〉の連中に高く売れるかもなぁ。
だが、その前にオレが味見してやる。魔性のてめえが人間の女と比べて、どれだけ具合イイのかをな」
きひひ、と男の後ろで下卑た笑い声があがった。
男がゆっくり近づいてくるにつれ、アデルは男の体臭を敏感に感じとった。
その中に獣欲の臭いを嗅ぎ分けることができた。
ズクンッ……!
「あ……」
また、あの疼きが全身に拡がった。
アデルの心はおぞましいと思っているのに、肉体のほうは獣じみた男の体臭を心地よいとすら感じているのだった。
その証拠に、男の好色な視線でねめ回されただけで、何かを期待するように胸の先端でキュッと乳首が固くなっていた。
(こんなの嫌だ……)
とっさに武器になりそうなものがないかと砂浜に目を落としたのは剣士としての習性だ。だが、木の枝ひとつ落ちていない。
男はアデルの前に立つと、彼女の細い顎に指をひっかけクイと上を向かせた。
「離せ。オレに近づくな!」
「ヘヘッ。さすが魔物だ。はねっかえりだぜ」
男の胸元から放たれるむせかえるほどの体臭を吸ってしまったせいか、男を押し返そうとする腕に力が入らなかった。
あっと思う間もなく男に抱きすくめられ、口を吸われた。
男の舌が乱暴に割り入ってくると、あろうことかアデルの舌はそれに応えてねっとりと絡みついてしまうのだった。
(欲しい……欲しい……)
アデルの中で欲情しきった雌の声が囁く。
うっとりと目を閉じたとき、男の顔が離れ、アデルは砂の上に押し倒されていた。
この場は逃げなくてはと思うのに、アデルの中で声がこう囁くのだ。
(さあ、その男に身を任せて……)
(嫌だ!)
(でも欲しいでしょう? 男の熱くいきりたったモノが)
(オレはそんなものを望んじゃいない!)
(嘘……だってこんなに体が甘く疼いてるのに……)
のろのろと後退るだけのアデルを男はなんなく押さえつけた。
アデルの両腕はまとめて頭の上で砂に押しつけられた。
男が強引に膝を割り入れてくると、あっけなくアデルが閉じ合わせていた両脚は左右に開かれてしまった。
「なんだよ、もうグチャグチャに濡らしてるのか? 魔の女はそうとうな淫乱らしいな」
節くれだった固い指が遠慮もなくそこに突き入れられ、くちゅくちゅと中を掻き回した。
「うわあああっ……!」
敏感な柔肌を手加減もなく掻き回されて、アデルは身をよじり叫んでいた。
男の身なら、決して味わうことなどない痛みであり、快感であった。
すぐに指を引き抜いた男は、それをアデルの顔につきつけた。
「見ろよ、こんなにトロトロになってやがる。おめえ、恥ずかしくはねえのか?」
「やめろ……オレは人間、だ……」
「ハァ? そういや見逃してもらえると思ったか? ヘヘ、残念だったな」
男はぬらぬらと光る指をアデルの唇の間に押し込んだ。
「ん、むううっ!」
「どうでぇ、自分の汁の味はよ?」
そうやってアデルを辱めたことで高ぶってきたのか、男は腰から下に身に着けていたものをその場に脱ぎ捨てた。
それを見まいとしても、アデルの目は男の股間に吸い寄せられた。
木の根のように筋張り、血管の浮き出た醜悪な一物がそそり立っていた。
チュクッ……。
女の部分に熱い汁がひとりでに溢れ、したたった。
全力で凌辱から逃れるための行動を起こさなくてはいけないのに、アデルはそれができないでいた。
このままではカーミラの思うつぼだ。そう思っているのに、激しい葛藤が体を金縛りにしていた。
(ああ欲しい……あれにむしゃぶりつきたい……)
(く……こんな欲望に負けてはダメだ!)
「いくぜ」
とだけ告げて、男が覆い被さってきた。
「待っ……あああっ!」
ぬ……ぷぅっ……
叫んだときにはもう、いきり立つ男の肉塊がその半ばまで挿入されていた。
(オレは……こんな男に……)
おうおう、と男は野獣のように吠えた。
「こいつはイイぜ……魔の女だけあって……こいつぁ、人間の女以上だ……」
男は感極まったように声を絞り出す。
ズチュゥゥッ……
男が腰を動かすと、男のモノがさらに深く侵入ってきた。
「あ……いい……」
濡れたような女の声。それが自分自身の口から出ていることがアデルには信じられなかった。
だが、求めていたモノをようやく迎え入れた歓喜に満ちて、
蜜壺はそれ自体が別の生き物のようにひくつき、貪欲に肉棒をくわえこむ。
アデルにできることは、肉の快楽に溺れまいと必死で理性の欠片にしがみつくことぐらいだった。
男はがむしゃらに腰をつかいだした。
「アッ……アッ、アッ、アッ……いい……きもちいい……」
何度も何度も、灼熱した一物がピストン運動を繰り返し、アデルの肉体はそれに奉仕するかのように襞をからみつかせた。
いつからか男は掴んでいたアデルの腕を離して、両手でアデルの細腰を掴んでいた。
「アッ、ふああっ、も、もっとぉ……」
「ヘヘヘ。魔物だけあって、とんだ好き者だぜ、この女」
「ちが……」
「どこが違うんだよ、ええ!?」
男の腰つかいに合わせ、少しでも快楽を逃すまいとするようにアデルの腰も蠢いた。
アデルの心だけは、そんな肉体の反応を屈辱に思っていた。
だが、女淫鬼の身はカーミラにいわれたとおり、性の快楽に逆らえないようになっているのだ。
男のペニスが奥深くに突き立てられるたび、アデルは身悶えして砂を掴んだ。
どんなに快楽に抵抗しようとしても、そのたびプツリ、プツリと理性が途切れてしまう。
頭が真っ白になる快感の波の中でうわごとのように言葉を口走っていた。
「もっと、もっと犯して……」
「うはは。言われるまでもねぇや」
(いまオレはなんて口走った……?)
焦って男を突き飛ばそうとしても、すでに深く結合している体位では女の側から男を拒むことはできない。
そうでなくとも、男が腰をつかうたび意識が飛んでいる状態ではろくな抵抗などできなかったろう。
不意にすぐそばで誰かが砂を踏む気配がした。
「親父殿。俺もご相伴にあずかっていいだろう?」
若い男の声がそう言った。
「そう来ると思ったぜ。上の口はてめぇのもんだ。好きなだけ犯してやんな」
「ありがてえ」
「ちと待ってな……よいせ!」
仰向けで男を受け入れていたアデルの体が軽々と持ち上げられ、くるりとひっくり返された。
「あ、なにを……」
「いいからそのケツを突き出せ」
ぴしゃんと尻を叩かれる。
「くそう……本当なら貴様なんか……あはんんっ!」
背後から腰を掴まれ、いまだ大きさも硬さも衰えないモノを挿入されてしまうと、
あとは淫らな喘ぎ声しかだせなくなってしまった。
さらにアデルの前方に、男の息子らしき人物がやってきて、下半身を剥き出した。
(ここにも……オ●ンチン……)
呆けたように開いた唇の端から、透明な涎がこぼれて砂に吸い込まれていった。
「こいつ俺のチ●ポ見てヨダレ垂らしやがった。呆れたド淫乱だぜ」
情欲に霞んだ意識の奥で、アデルの本来の心が屈辱に身震いした。
半ばまで皮をかむった、饐えた臭いのする肉棒が顔の前に近づけられた。
噛み千切ってやる、とアデルの心は思った。
だが若い男の瞳に映るアデルの顔は、発情しきって男のモノに目を奪われている淫蕩な女のものだった。
「いいんだぜ、好きなだけしゃぶって」
「あぁ……だれ……が……」
かろうじて拒絶の言葉を口にできたのは、いまのアデルにとって奇跡といってもいい抵抗だった。
だが、同時にそれが限界でもあった。
忌まわしいはずの男の肉棒が、いまのアデルにはたまらなく愛おしい存在に感じられた。
淫鬼にとってそれは間違いなく、最高の餌なのだ。
口の中にはとめどもなく唾液があふれ、無意識に何度も唇をなめていた。
そんなアデルの反応に、若い男は歓喜の笑みを浮かべていよいよ近くにペニスを突き出してきた。
鉄が磁石に引き寄せられるように自然に、アデルはそれに舌を這わせていた。
「むおお……」
ぴちゃ、ぴちゃと淫靡な音が響く。
舌に広がる味は極上の酒のように感じられた。
(もう……)
(だめだ……)
(欲しい、欲しい!)
次の瞬間、アデルの朱の唇の中に男のモノが含まれていた。
求める“餌”にありつけた本能の悦びと、肉欲に負けた屈辱とが同時にアデルの心を満たした。
若い男はアデルの頭を両手で掴むと、腰を振り立てた。
喉の奥に突き入れられる男の欲塊に、巧妙に舌をからめると、若い男は「うう」と呻いた。
四つ這いの姿勢をとらされたまま、口と女陰の前後からアデルは犯され抜かれた。
それも、自ら腰を振り、舌をつかいながら。
前と後ろに。何度も抜き差しされる男たちのペニスがたまらなく愛おしく感じられた。
自分が何者であるかも忘れるほどにアデルは男たちの責めに酔い、その肉体を貪った。
やがて先に果てたのは、若いほうの男だった。
無言でひときわ強く股間を押しつけると、アデルの喉の奥深くで精が放たれた。
(あ……あっ、あっ、あ……)
男の精が体中に沁みわたるようだった。
えもいわれぬ満足感とともに、膣がひく、ひくと強く収縮した。
その刺激で続いて髭の男のほうもひききわ大きく呻いて腰を重ねてきた。
体内深くでドクドクと熱い精液が吐き出されるのが感じられた。
魔の身にあっては胎内の感覚も人間とは異なっているのだ。
熱く濃い精液を受け止めた肉体が歓喜に打ち震えた。
「は……あぁぁぁ……」
四つ這いの屈辱的な姿勢のまま、アデルは甘くとろけきった吐息をもらした。
その吐息に含まれるなんらかの成分が、いま果てたばかりの男たちの鼻腔をくすぐった。
己の股間でみるみるうちに固さを取り戻す一物に、二人の男は目を丸くした。
「こりゃあ……もう一回戦いけそうだな親父殿」
「おう。俺もまだまだ若いってことか。ガハハ!」
二人は場所を入れ替わると、今度は髭面がアデルの口腔を、息子のほうが女陰を犯し始めた。
アデルの肉体は嬉々としてそれに応えた。
犯されれば犯されるほど、甘美な陶酔が心を溶かしていく。
「親方。俺たちももう見てるだけじゃ満足できませんや」
「後生だ。その女、俺たちにも犯させてくれ」
ずっと二人の男の行為を見守っていた手下たちが髭面のリーダー格の男に懇願した。
「おおう、いいだろう。無礼講だ。貴様ら、余った穴があったらどこでも突っ込めい」
「さすが親方。話がわかる!」
アデルは朦朧と揺らぐ意識の中でそれを聞いていた。
手下の男たちが群がってくると、あとはもはや狂乱の宴と化した。
女陰と口を犯されながら、さらにアヌスを犯された。
誰のものともわからぬ筋張った手で胸を乱暴にこね回され、舌でねぶられた。
乳房の谷間でもペニスがしごかれ、体中のいたるところに何度となく白濁液をぶちまけられた。
「けけっ、どうよ。感想は?」
「いい……もっと、かけてください……」
「うははは。そうこなくちゃな」
ドピュッ、ドピュッ。
誰のものともわからぬザーメンを顔にかけられ、流れ落ちてくるそれをアデルは手ですくい、舌で舐め取った。
「男の精……もっとぶちまけて! お腹一杯にぃ!」
入れ替わり立ち替わり男たちはアデルの女体を凌辱した。
不思議なことに何度交わっても、そのたびに男たちのペニスは勢いを取り戻し、新たな欲望をたぎらせるのだった。
アデルもまた、口に、秘奥に、アヌスに、精を放たれるたびに悦楽に震えた。
どれだけ、その宴が続いたのか……。

湖畔に静寂が戻ったのは、東の空が白んでくる頃だった。
アデルは砂浜に手をつき、立ち上がった。
姿勢を変えた途端、蜜壺からとろとろと白濁液がこぼれ落ちた。
全身に精液のこびりついた跡がついて、むせかえるほどの臭いがたちこめていた。
アデルをあれほど苦しめた餓えは、いまやすっかり満たされていた。
「……オレは、本当の意味で“魔”になってしまった」
アデルは苦くつぶやいた。
その足元には、骨と皮ばかりになった絶命した山賊たちの死骸が折り重なっていた。
男たちはあれからアデルの躰の虜となり、とめどもなく精を放ち続けた。
そして、人としての限界を越えて精を搾り取られ、文字通り“果てて”いったのだ。
「だが……こいつらには、似合いの結末だ」
アデルは湖で身を清めると、男の死骸の中からボロ布の外套を見つけて裸身の上にはおった。
「カーミラ、様。これで満足か、オレをとことんまで堕として?
笑ってるがいい。この身が魔の眷属となってもオレは必ずあなたに刃を突き立ててみせる」
暁の空の彼方でカーミラの哄笑が響いたような気がした。


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