(簡単なあらすじ)
神のような能力を持つ“ノウブル”という人種がいる世界。
主人公の敬介は、ノウブルの詩織によって、女に、さらには人犬に変えられてしまったのだった。
そのメス犬は、人間だった頃の夢を見ていた。
まだ自分が敬介という名前の人間だった頃の夢を。恋人の有紀と笑い合いながらキャンパスの並木道を歩いてた頃の夢を。
有紀を抱きしめたと思ったとき、腕の中から有紀は消えていた。
そこで夢は途切れた。夢のあとには現実が待ち受けていた。
薄暗く臭気に満ちた部屋に敬介は一人でいた。
現実では敬介は一匹のメス犬だった。
水で膨らませた風船のように肥大化した巨大な乳が、見たくなくとも目に入ってしまう。
うつぶせでうたた寝していた敬介の胸の下でクッションのように床に押しつけられていた乳房がじんじんと痺れていた。
無様に膨れあがった乳を腕で抱き寄せ、赤くなっている場所をペロペロと舐めた。
それがどんなに淫らで浅ましい姿か、いやというほどわかっている。
それでも“イヌ”にとっては悲しいほど自然な行為だった。
止めようとしても、体が勝手にその行為を続けてしまうのだ。
「うぅ……」
夢の中ではあれほど有紀と言葉を交わし合っていたのに、いまの敬介は簡単な言葉も喋れない。
吠えるか唸るか鼻を鳴らすかしかできない。
同じように犬に変えられた有紀は、とうの昔にどこかへ連れ去られてしまった。
ノウブルの“愛犬家”に売れたのだ、と詩織は言っていた。
有紀が男たちに綱を付けられて引いていかれていくとき、敬介はそれを見送ることすら許されなかった。
その場で敬介は尻を詩織のほうへ向けさせられ、発情したメス犬がそうされるように膣へ綿棒を出し入れされ、
そんな屈辱的な方法で他愛もなくよがり声をあげ続け、ダラダラと洪水のように淫汁をこぼしていたのだ。
発情期で充血した花弁の奥へ詩織が綿棒を突っ込むたびに、敬介は望みもしない甘い快感に貫かれ、イッてしまった。
何度も何度も、心とは関係なく絶頂を迎えさせられた。その遊戯は、詩織が飽きるまで続けられた。
敬介は何一つ、それに抵抗することができなかった。
男として有紀を守れなかったどころか、助けを求める有紀の前でみっともなく尻を振り立て、
とろけきったよがり声を放っていたのだ。
身も心も本当のメス犬に堕ちた気分だった。
その日からどれだけの日々が経ったか、敬介に知るすべはなかった。
ただ、時折見る昔の夢がなければ、
自分が人間だったということすら忘れてしまいそうなほど月日が経っていたのは確かだった。
◇
敬介は四つ足で立ち上がった。
寝起きですっかり喉が渇いていた。水の張られた皿は部屋の反対側だった。
(胸が、邪魔だ……)
四つ足で歩く姿勢になると、ひとかかえはあるほど大きく育ってしまった乳房がゆさゆさと揺れ、
ゆっくり歩かないと上体のバランスを崩してしまうほどだった。
歩くため手を動かすたびに胸が腕にぶつかってこすれた。そのたびに、淫らなメス犬の体は快感を覚えてしまう。
ぴちゃっ、ぴちゃっ……
犬用の皿に直接口を近づけ、舌ですくうようにして水を飲む。
はねた水が乳房の表面に何度もはねた。
濡れた乳にも舌を這わす。ぴちゃぴちゃと自分の胸を舐めているうちに、胸の芯がずきずきと疼いた。
重い胸を抱え上げ、しこった乳首を口に含んで甘噛みをすると、全身が痺れるほど気持ちよくなった。
「はぁ、はぁ……」
敬介は床のある一点から目をそらせないでいた。
そこにはにょっきりと木の器具が上向いて取り付けられていた。
床から生えた植物のように、ペニスの形を模した張り型が突き立っている。
その器具は数限りなくこすりつけられた淫液によって黒くてかりを帯びていた。
(くぅ……ダメぇ……こんな誘惑に……)
敬介の理性をよそに、熱くなってしまった体は欲望を満たしてくれる器具を求め、そこへ向かっていた。
(悔しい……よぉ……)
つぷぅっ。
必死に逆らおうとする心を嘲笑うように、敬介の体はいそいそと器具の上へ腰を沈めていた。
「きゃうぅぅ……」
明らかに甘い鼻にかかった声でメス犬が鳴いた。
ずぶ、ずぶぶ。
何度も、媚肉を器具こすりつけるように腰が上下した。
「あうぅ、あうぅぅっ、ううぅ!」
すっかりメス犬そのものになり尻尾をばたつかせながら敬介は腰を振った。
舌を突き出し、とろけきった表情で喘ぐ。細い体に不似合いなほど大きな胸が無軌道に揺れた。
いつしか敬介の心は快楽の渦の中に溶けていき、ただ雌としての快楽をむさぼるため一心不乱に腰を動かし続けた。
◇
「なあに? またサカってるの!?」
「アゥ……?」
少女の声が、敬介の理性を引き戻した。
いつのまにか、敬介を見下ろすようにして詩織がすぐそこに立っていた。
張り型に自ら貫かれ、ヨダレと愛液を垂らしている敬介の姿をおかしそうに眺めている。
(こんな姿を……!)
詩織がそこで見ているというのに、体の動きはすぐに止まってくれなかった。
詩織の目の前で、敬介は浅ましく腰を振り続けてしまった。
「ケースケって、本当はメス犬になって喜んでるんじゃないかしら?」
どんなに反論したくとも、出てくるのは獣の唸り声ばかりだった。
詩織の手が敬介の腹に当てられた。
外見的にはまだ目立たないが、敬介の腹は日ごとに丸みを帯びてきている。
「フゥゥ……」
「アハハ。ケースケ、再来月にはまたママになるね」
詩織はおかしくてたまらないというように肩を揺らして笑った。
そう。敬介は妊娠していた。
敬介の意思などお構いなしに体は母体としての準備を整えつつある。
腹は丸く膨らみ、胸の乳腺はきつく張って乳房をさらに大きくしていく。
望んでなどいないその変化を、敬介は受け入れるしかなかった。
「お前が最初に子犬を産み落としたときの顔、最高だったわ。
屈辱に顔を歪ませてるくせに、心のどこかでお前ったら、女の幸せを感じてたでしょう?」
敬介は首を振った。
だが、詩織の指摘は正鵠を射ていた。
異形の子を孕み、出産させられてしまったことをおぞましく思いながら、
生まれてきた子たちを憎むことはどうしてもできなかったのだ。
この出産で乳房はいまの大きさにまで膨らんでしまった。
三匹の子供たちに乳を吸われると、奇妙なほどの幸福感に満たされた。
その幸福感が詩織の作為のもとで与えられた偽りの感情だと知りつつも、敬介はそれにすがった。
子供たちは人間ではありえない早さで成長していった。そこには詩織の力が働いていたのだろう。
数ヶ月も経った頃には、一人の男の子と二人の女の子は、思春期の男女の外見になるまで育っていた。
女の子たちは敬介によく似ていた。
彼女たちもまた有紀と同じように、ある日、使用人の男たちに部屋から出され、
敬介の知らないどこかへと連れて行かれた。
敬介の産んだ子のうち男の子だけが残った。
その子に人間の言葉で話しかけられないことが敬介は悔しかった。
奇妙に平和な日々を経て、事件は起きた。
敬介の子が発情期を迎えたのだ。
狭い部屋の中で男の子の欲望が向かう先は、メスである敬介の肉体しかなかった。
敬介は精一杯抵抗したが、性欲をもてあます我が子に捕まり、背後から犯された。
敬介もまた、メスとしての発情期を迎えていたのだ。
ペニスを挿入されると、肉体は歓喜に震えてそれを迎え入れた。
自分の腹から産まれた子に犯される──。
詩織がオスの子と敬介を一緒に飼っていたのは、この状況を作り出すためだったのだと敬介はようやく悟った。
(ダメだ……この子の精で妊娠するのだけは絶対ダメだ──!)
メスの肉体を知った若いオスは、飽きることなく敬介を求めてきた。
悲しいかな、発情期の体はそんなオスの欲求を受け入れ、
それどころか牡の臭いを嗅いだだけで狂おしくそれを求め、気がつけば尻をすりつけるようにして誘っていた。
有紀に犯されたときと同じように、繰り返し敬介の胎内で濃い精液が放たれた。
一縷の願いも虚しく、敬介は我が子の精を受けて妊娠してしまった。
発情期を過ぎると同時に、男の子もまたどこかへ引き取られていった。
近親相姦の子を孕まされた敬介だけがたった一人で残されたのだ。
◇
無防備な乳房をむんずと掴まれた。
「うぅ……」
「やっぱり獣だよね。自分の子と繋がっちゃうなんて。フフ、ケースケのオッパイ、こんな大きくなっちゃて。
今度は子犬、何匹生まれるのかな? ほっといたらケースケ、また自分の子とセックスしちゃうのかな?
このままじゃハムスターみたいにどんどん殖えちゃうね。キャハハハハ!」
敬介は耐えられず、涙を流した。なにより、詩織の言葉が真実なのが悲しかった。
また発情期を迎えてしまえば、敬介がどんなにその行為を忌み嫌っても、
再び我が子相手に欲情し、犯されて尻を振ってしまうだろう。
詩織は敬介の首輪に綱をつけ、敬介を外に引っ張った。
「今日はお友達を呼んでるの。あたしの飼い犬であるケースケを自慢しなくちゃ」
綱を引かれるまま、敬介は付き従った。
大きすぎる胸が無秩序にバウンドし、何度も腕に当たって四つ足での歩行を妨げた。
廊下ですれ違う使用人たちは一様に蔑むような目で、イヌに堕とされた敬介を見た。
ごく稀に詩織はこうして敬介を外へ連れ出すが、哀れなメス犬と化した姿を人々に見られることは、
暗い部屋に閉じこめられるのと同じくらい苦痛だった。
玄関から続きになっている広間の壁際には高名な博物館から寄進されたルネサンス期の彫刻が並んでいる。
それらに混じって、生きた裸の女が壁から「生えて」いた。
下半身と両腕の肘から先が壁に埋められ、女は生きたオブジェとして白い裸身を晒している。
詩織がその女へ手を差し出すと、女は夢中でその手に唇を押し当て、口づけた。
オブジェに言葉は不要なのか、女の喉から声が出ることはない。
詩織はクスッと笑うと、褒美とばかりに女の乳房を指で撫でた。
女は無声のまま白い喉を震わせてその愛撫を受けた。
「ご覧、ケースケ。これはね、ノウブルとそれ以外の人間が平等だなんて愚かしい思想を民衆にばらまいた男の成れの果て。
軍隊を率いればノウブルに互角の戦いを挑めると思ってたのよ。フフフ。
反乱に加わった何万という人間は処刑されたけど、
首謀者だったこいつはお誂え向きのオブジェとしてこの館に置かれることになったの。
あたしが産まれるより前のことね。
力に屈しても信念だけは揺るがない、なんて偉そうなことを言ってた男が、
女に変えられ、性感覚を一〇〇倍程度になるよう肉体をいじられただけで、あっけなく屈服したのよ。
精神は一切いじらなかったというのに、たった三日で堕ちたって聞いたわ。
それ以来、こいつはこの広間で、ノウブルたちの目を楽しませるオブジェになってるの」
オブジェの女は、増幅された快感を与えられ、動けない体をわななかせる。
狂ったようによがりながら、女の瞳の奥には決して表に出すことを許されない哀しみの色が宿っていた。
哀れなオブジェと化したまま、それでも自我をなくすことだけは許されていないのだ。
オブジェは見せしめですらなかった。
純粋な酔狂であり、歪んだ“芸術”なのだ。
かつて人間が“神”と呼んだ存在に近しい力を持つノウブルたちにとって、
ことさらに見せしめによって民衆の反抗を抑え込む必要性はない。
暴動が起きれば、それは力のない人間たちを嬲るいい口実になるだけなのだから。
◇
館の玄関から庭に出ると、茂みへと連れて行かれた。
「ほら、ケースケ。ここでオシッコしなさい」
詩織は茂みを指さした。
「アゥッ!」
(そんなことさせないでくれ!)
詩織は命令にノウブルの力による強制力を含ませていた。
敬介の思いとは裏腹に、体は主人である詩織の命令に従っていた。
突如としてこみあげてくる尿意にブルリと震える。
(ああ……我慢できない……)
尿意がせっぱつまってくるにつれ、敬介は自然とメス犬の排尿の姿勢をとっていた。
尻尾を巻き上げ、腰を低くする。
歯を食いしばって死に物狂いで抵抗したのも虚しく、股間の割れ目からちょろちょろと黄金色の液体がほとばしった。
尿道口から直接温かい液体が迸る感覚は、否応なくこの肉体の性別がなんであるかを敬介に伝えてくる。
敏感になった臭覚が、まぎれもない雌犬の尿の臭気を嗅ぎ分けた。
その尿の匂いは、妊娠した雌のものに間違いなかった。
(こんな場所で放尿させられるなんて……)
「あら、イヌのくせに恥ずかしいの? いまさらよねえ。
こんな西瓜みたいなオッパイをブラブラさせてる時点で充分恥ずかしいってわかってる?」
敬介の心を読み、詩織は追い討ちをかけた。
自らを辱めるように、タプンッと胸が揺れた。
「アアゥ……ゥゥゥ」
「オシッコもすんだみたいだし。行くわよ、ケースケ」
詩織は手綱を引き、広大な庭園の中にある湖へと向かった。
◇
まるで観光地のように美しい湖畔の風景だった。
エメラルドグリーンの湖面を渡ってくる風は涼気を帯びていてさわやかだった。
温かい陽射しに草の緑が映え、木陰には丸太を割って作られた野趣のあるベンチがしつらえられていた。
肉や野菜を焼く香ばしい匂いがしていた。
久しく嗅いだことのない人間の食物の匂いだった。
自然と敬介の口中に涎が溢れてくる。
ベンチのそばにバーベキューセットが持ち出され、何人もの男女がそのまわりで談笑していた。
普段、館を訪れるノウブルたちとはどこか雰囲気が違う。
彼らが、館の外の世界にいる普通の人間たちのように敬介には思えた。
詩織はその男女のもとへと敬介を引っ張っていく。
「ついておいで」
と一言いわれただけで、ほかの選択肢はすべて奪われ、唯々諾々と引き綱に従って歩くほかなかった。
敬介は何も考えるまいとして、地面だけを見ながら詩織につき従った。
目に入るものといえば、やわらかな草と、卑猥に揺れ動く自分の乳だけだった。
やがて詩織がぴたりと足を止める。
笑いを含んだ声で詩織は言った。
「ケースケ。顔を上げてごらん」
「……?」
思わず前方を仰いだ敬介は、心臓が止まりそうになった。
「ウッソー。ほんとに敬介君なのォ?」
「おいおい。こりゃまた見違えちまったな!」
「でも、なんとなく面影残ってるよね、顔つきとか」
「よう、敬介。久しぶり!」
「ハハハ、話にゃ聞いてたけど、実際に見ると傑作だな! 耳と尻尾つきでおまけに爆乳かよッ!」
敬介は目を大きくみはったまま、立ちすくんだ。震えが止まらずかちかちと歯が鳴った。
目の前に立つ男女はみな、敬介の在籍していた大学の研究室の人間だった。中には助手の女性もいた。
ごく身近に付き合いのあった者たちが、薄笑いを浮かべて敬介を見下ろしていた。
「あ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛……」
「静かになさい、ケースケ。お前がこの館にきたあと、この人たちはあたしの友人になったのよ。
今日はせっかくのバーベキューパーティーだから、メス犬になったケースケをみんなに見てもらいましょうね」
「アーゥ、ウウウッ!」
愕然として敬介は首を振った。
「ケースケ、お前、イヌのくせに、もう一度人間の言葉を喋りたいっていつも願ってたでしょ。
一回だけ、その望み、叶えてあげるわ」
敬介は詩織がなにかしらの力を自分に向けたことを悟った。
「ほら、御挨拶!」
「アウッ!」
首輪を掴まれ、無理やり上体を引き起こされた。
膝をついた「後ろ足」だけで立つ、イヌの“ちんちん”の姿勢だった。
ふらふらと安定しない状態が、首輪を掴んだ手で支えられている。
次の瞬間、敬介の中で強い衝動が生まれた。
絶対に逆らうことを許されない神の声のような強制力に支配され、敬介は口を開いた。
「あ……私は人間だった頃、生意気にも詩織様に逆らってしまったので、
躾のために詩織様によって女に変えていただき、さらには卑しいメス犬に変えていただきました」
すらすらと言葉が出た。
暗い部屋の中で気が狂うほどあがいてそれでも叶わなかった願いが、
ひどく歪められた形で、詩織の力によってあっさりとかなったのだ。
口から出るのは、自らを限りなく貶める言葉だけだった。
「メス犬になった私は、孕んで子供まで産んでしまいました。い……いまも妊娠してます。
オッパイもこんなに大きくなって、イヤラシイ体になりました。
どうか、愛玩用のペットに成りはてた私を心ゆくまで見ていってくださいませ…………うぅぅぅ……」
口上が終わった瞬間から、人語を喋る能力は取りあげられていた。
静まりかえって敬介の口上を聞いていた仲間たちのあいだで、ほうと誰からともなくため息が聞こえた。
「すごい! よく躾られてますね!」
「えへへ。淫乱なメス犬にしてはお利口さんでしょ、ケースケ」
「ハハ、そりゃま、人間だった頃は研究室の中でも将来有望っていわれてたくらいだからな」
「それがいまじゃこの有様か。ばかだねぇ、詩織ちゃんにたてついたりするから」
嘲笑を浴びせられ、敬介は顔をそむけた。
だが、顔はそむけることができても、巨大に成長した胸の球体はこれみよがしに知己たちの前に晒されたままである。
男たちの目は食い入るように胸へと注がれている。
いや、女たちも半ばあきれたような顔をしながら胸に注目していた。
(こんな姿を見られるくらいなら……死んでしまいたい……)
敬介ははっとした。じくじくと股間が濡れ始めていた。
視線に晒され羞恥心を感じることで、感じてしまったのだ。
詩織が首輪から手を放すと、敬介は上体を支えられずイヌとしての姿勢に戻った。
手をついた弾みで大きく胸が波打って、それを見ていた男たちが歓声をあげた。
首輪から手綱が外された。詩織がよそ見をした隙に敬介はその場から逃げ出そうとした。
「ケースケちゃん。おいで♪」
助手として敬介の研究を手伝ってくれたこともある女性が、敬介の名を呼んだ。
その途端、逃げだそうとしていた敬介の足が止まった。
(え……?)
何が起きたのかわからないでいるうちに敬介は助手のもとへと走り寄っていた。
頭の上に手が置かれる。
「あは、きたきた。可愛いね。こら、元男だったくせにあたしよりおっきいオッパイってどういうつもり?」
「あ゛……」
乳房を指で突っつかれると、重量感のあるそれはたぷたぷと揺れた。
揺れるたびに、さざ波のような官能が体を駆け抜けていく。
「おいで、ケースケ」
今度は男の学生に呼ばれた。
いましがたと同じように敬介は、声のしたほうへ向かっていた。
「よしよし、いい子だ」
男に頭を撫でられると、敬介の中に奇妙な感情が沸き起こった。
有り得ないはずの安心感と目の前の人物に甘えたい衝動だった。
(詩織がオレの心をいじって……!)
そう頭で理解しても、その強烈な感情に逆らうことは不可能だった。
「くぅん……」
反吐がでるほど甘えた鼻声が出る。イヌの尾をばたばたと振ってしまう。
自由を求めて逃げ出すどころか、かわるがわるにかつての仲間に呼ばれるたびに嬉しそうにそちらへ駆け寄ってしまう。
かつての学友がギラついた目をして乳を掴み、こねてくるのがたまらなく嫌なはずなのに、
頭を撫でられると強制的にその相手への信頼感が植え付けられてしまう。
それを知っているのか、研究室の仲間たちはかわるがわる敬介の乳をこね回し、
敬介がそれから逃れようとすると頭を撫でる。
「はぁ……はぁ……ンンッ、ン、クン」
何度も優しく撫でられると、それだけで達してしまいそうになった。
秘所からとろとろと蜜がしたたり、草にかかった。
つぷり、と誰かの指がそこに差しこまれた。
「ひんっ……!」
頭を撫でられている敬介はそれに逆らうことができない。
いいように指を掻き回され、それに応えて甘い声で鳴いてしまう。
ぐちゅぐちゅぐちゅっ。
熱くなった蜜壺に誰かの指が付け根までもぐりこみ、敬介の内側を掻き回した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛……ひぅぅんっ」
指に操られるように敬介は尻を揺らし、はぁはぁと舌を突き出して喘いだ。
「あーあ。将来を期待されてた秀才もこうなっちゃ台無しよね」
「エリ、お前すごい勢いで掻き回すのな」
「だぁーって。こいつ、昔、私に言ったのよ。女は研究には向かない、なんてさ。バーッカみたい。
偉そうなこといってた自分が女どころかいやらしいメスになっちゃって、いまどういう気分かしらね?」
敬介の頭を撫でていた手が離れていった。
敬介の心を無理やり縛っていた強烈な幸福感と安心感が一気に消え失せた。
ぐちゅっぐちゅっ!
エリは容赦なく指の抽送を繰り返した。
「あ゛っ、あ゛っ!」
「ホラホラッ。答えられるもんなら、答えてみなさいよ! フン、呆れちゃうわよね。
高いところから女を見下してたあんたが、ちょっとノウブルに体を作り替えられたくらいでこんなに淫乱に腰振っちゃってさ。
なあに、お●んこなんてHな汁でベトベトじゃない? そんなにあたしの指が気持ちよかった?」
指戯から逃れようと、敬介は火照りきった体を前に進めようとした。
「どこ行くの? ──おいで、ケースケちゃん」
「ううーっ!」
おいで、と言われた瞬間、敬介の体は敬介を裏切り、エリに尻を押しつけるように後退を始めてしまった。
蜜壺を責めるエリの指の動きがいよいよ激しくなる。
快楽の器官を、その仕組みを知り尽くした同性に嬲られ、
敬介は逆らうすべもないまま一気に高みへ押し上げられてしまった。
ずうん、と下腹の底から快感が押し寄せてくる。
「見て。こいつ、メスそのものって顔になってるわ!」
「本当だな。はぁはぁ舌出して快感に溺れきってやがる」
(ちがう……ちがうんだ……オレはこんな快感を望んじゃいない!)
敬介の心の叫びを押し流してしまうほど、ひときわ強い快楽の波が押し寄せた。
くちくちゅ、ぐちゅうっ!
エリが指を二本、根本まで押し込み、思いきり蜜壺の中で暴れさせた。
「────!!!」
抵抗すらできないまま、敬介は強制的に絶頂を迎えさせられた。
かつての知己たちが守る前で、敬介ははしたなく愛液と涎を垂らし、
何度も寄せては返すエクスタシーの波に身をわななかせた。
どっと笑い声が降り注いだ。
皆、敬介がイカされる様を拍手喝采して囃し立てた。
「あーあ。獣らしいイキっぷりね。お前のおかげで指がべとべとだわ。お舐め」
エリが敬介の顔の前に、愛液でぬらぬらと光る指を突き出した。
それから顔を背けようとしたとき、頭を撫でられた。
途端に、逆らうことのできない安堵感で心が満たされ、
敬介はクンクンと鼻を鳴らしながら差し出された指に舌を使っていた。
己の愛液にまみれた指をきれいに舐めていくことがたまらなく誇らしいことに感じられた。
「あはは。あの生意気だった男をこんなふうに好きに弄べるなんて、最高。
ノウブルってやっぱり凄いわね、詩織ちゃん」
「えへへ。それほどでもないよ」
◇
本来の感情を取り戻したとき、それまでの幸福感の反動が一気に押し寄せた。
あれほど自分を辱めた相手に文字通り尻尾を振って体をすりつけ、甘えてしまった自分があまりにも惨めだった。
「ねえ、みんな。ケースケのビデオを見てみない?」
「メス犬としの成長の記録? そりゃあ、面白そうだ!」
詩織の提案に皆は口々に賛同した。
詩織が指を鳴らすと、空中に画像が映し出された。
それは敬介が人間の女から“メス犬”に変えられるときの映像だった。
詩織の能力によって再現されるその映像は、ホームビデオで撮ったもののように鮮やかにそのときの情景を映し出していた。
同じく犬に変えられた恋人・有紀に犯される様子が鮮明に映し出された。
「発情期だからって、自分からケツ振って誘うかねえ。元が人間の男とは思えないよ。
こいつの本性って、実は最初からメス犬だったんじゃないの?」
「うふふ。そうよねえ。それしか考えられないわよねえ」
いたたまれなくなり、敬介はその場から少しでも遠ざかろうとした。
かちゃっ。
いつのまにか首輪に手綱が繋がっていて、詩織にそれを強く引かれた。
「ケースケ。ここに立ちなさい」
敬介の体はひとりでに動き、詩織が指さした場所で四つん這いのまま立ち尽くした。
「あ゛!?」
敬介は己の身体に訪れた変調に気付いた。
乳房がジンジンと熱く痺れ、乳頭の中心が鋭く疼く。
敬介はその感覚を知っていた。
(あああ! これ……母乳が……出るときの……!)
有紀の子を産んだときも、自然と乳房がいまの状態になり、母乳が分泌された。
詩織に体をいじられたのだろう。敬介の大きな乳房の先端で、乳頭に白い雫が結んだ。
(いやだあああ!!)
「お前にはしばらくミルクスタンドになってもらうわね」
「うーっ、うーっ!」
「え、なあに? 人間の言葉でいってくれないとわからないわ。クスッ」
空中で再生される“ビデオ”は、オス犬に変えられた有紀との獣欲にまみれた日々を映し出していた。
皆、その映像を見ながら、ときおり敬介を言葉でいたぶる。
「恋人だった女のペニスを挿入されるのはどんな気持ちだった?」
と、敬介が忘れようとして忘れられない屈辱を掘り返すのだった。
「みんな、喉かわいたでしょ? ケースケにミルクスタンドになってもらったわ。
ケースケのオッパイの下にコップを持っていって、こうして乳首をしごくと新鮮なミルクが出るわ」
「くんっ!」
香りは言葉と同時に実演してみせた。
詩織の小さな指が乳首を摘むと、ペニスの先端を愛撫されるのにも似た強烈な快感に貫かれた。
きゅっ。
乳首を一度しごかれただけで、詩織の持つコップめがけて熱い液体が乳頭の先端から迸った。
張り詰めた乳房の圧力で、勢いよく白いミルクが注がれた。
「アハッ! ほら、出た」
今度は反対側の乳首をつままれると、そちら側からもミルクがしぶいた。
敬介の意思に関わりなく、いまや敬介は生きたミルクスタンドにされてしまったのだ。
「どれどれ」
かつては敬介と机を並べて学んだ友が、相好を崩して近づいてくると、敬介の乳房をきゅっと掴んだ。
とても片手では掴めない胸のサイズである。男の手が乳房に埋もれたようになった。
ぽたぽたっ……
ミルクの滴が乳頭からこぼれた。
「へえ。甘いいいニオイじゃん!」
「あぅ、うぅ、うぅ!」
詩織の強制的な命令によってその場を動けない敬介は、精一杯男を睨んだ。
「そうやって睨んでも、乳は出るんだよな」
乳首をしごかれると勢いよくミルクが溢れ、男のコップに収まった。
強烈な射精の快感にも似た感覚に襲われる。
射精ならまだしも自分の意思でこらえることができるのに、乳房が張り詰めるほど一杯に溜まった母乳は、
乳首を軽くしごかれるだけでとめどもなく溢れてしまう。
「俺とお前は学科でもいろいろ比べられたりしたよな。
そんなライバルがまさか、でかいをユサユサ乳揺らすだけのミルクスタンドになってるとはな。
ハハハッ、さてビデオ上映会に集中するかな」
「ケースケ。お前も自分の恥ずかしい記録、しっかり見なさい」
「あ゛……う゛う゛……」
詩織に命令されると、空中に映し出された映像から目を逸らせなくなった。
映像は、有紀が連れ去られた日のものだった。
有紀が悲しそうな顔をして黒服の男たちに綱をひかれていく傍らで、敬介は詩織によって発情期の躰を弄ばれ、
焦点の合わない目で涎まで垂らしてよがり狂っていた。
熱くはれぼったい花弁に綿棒を差し込まれ、それを抜き差しするだけの単純な作業によって、よがり狂わされていた。
その姿は発情期のメス以外のなにものでもない。
「プライドってもんが少しでもあれば、ああはならないわよね」
「おいおい、こんないやらしいメス犬にプライドなんてあるわけないだろ?」
映像を指さし、知己たちはどっと笑った。
「こら、ケースケちゃん。ミルク出せ」
エリは敬介の尻をぴしゃりと叩くと、その余波で揺れる乳房の下にコップを構えた。
きゅっ、きゅっと乳首をしごかれるたびにミルクが飛び出し、射精の何倍もの甘い快感を胸に感じた。
生きたミルクスタンドと化した敬介はせめて感じてしまってるところだけは見せまいと唇を固く引き結び、
声を出さないように耐えた。
上映される映像の中では、敬介の腹が日ごとに大きくなっていく様が映し出されていた。
有紀とのセックスによって妊娠してしまった結果だった。
敬介は下腹の張りをかすかに意識した。
いまも二度目の妊娠を迎えている。あと一月もすれば、映像の中のように、大きく腹がせり出してくるだろう。
否応なく日ごとにせり出してくる下腹のふくらみは、
どんな言葉よりも強烈に、自分が女でありメスであることを突きつけてくる。
どんなに自分が本当は男だったと言い聞かせても、孕まされ子を宿してしまった身重の体になってしまうと、
自覚せざるをえなかった。
自分が“メス”になってしまったことを。
上映は進んでいく。
やがて映像の中の敬介は、四つん這いになっていて下腹が床につくほど大きくなってしまった。
胸が肥大化を始めたのもこの時期だった。ぼってりと丸くふくらんだ腹だが、奇妙なほどエロティックだった。
(もうしばらくしたら、またあんなふうに……い、いやだ、いやだぁぁぁ!!)
腹が重くなって、歩き回ることすら困難になった身重の時期のことをまざまざと思い出させられ、
敬介は心の中で叫んだ。
「うわぁ。ぽってりお腹ふくらんじゃって。お腹を気づかって動いてるとこなんて、母性本能よねえ」
「はは。中出しされて腹ボテか。ケースケちゃんが人間の言葉を喋れるんなら、
ぜひ感想を聞いてみたかったとこだよな」
「オッパイもまあ恥ずかしいくらい大きくなっちゃって」
「その恥ずかしいオッパイからミルクのおかわりをもらうとするかな」
敬介の乳房は荒々しくしごかれると、無尽蔵とも思えるほどの母乳を放出した。
「ぅぅ……ッ!」
胸を絞られるたびに甘い快感が縦横無尽に身体を駆け抜けていく。
ミルクを絞られるという辱めを受けているのに、敬介の躰はいやらしく反応してしまう。
股間はいまも愛液で熱く濡れていた。
映像が切り替わり、三匹の子犬に囲まれた敬介の姿が映し出された。
子犬は二匹が女の子で、一匹が男の子だった。
生まれた子は敬介や有紀の歪められた姿を受け継いだ、人犬の異形だった。
だが、産み落とした我が子を厭う気持ちにはどうしてもなれなかった。
母性本能といわれるものを敬介ははっきりと自覚した。
よちよちと歩く子犬たちを見ると、敬介はいっとき自分の身の上を忘れ、子を愛する母親の気持ちになりきっていた。
少しでも子犬たちを清潔にしてやるため体を舐め回してやったりもした。
子供たちが甘えてすりよってくると、親としての愛情で胸がいっぱいになった。
自分の子供たちに乳を与えることには、なんの嫌悪感もなく、むしろ誇らしい気持ちさえした。
詩織の仕打ちを恨む気持ちは変わらなかったが、罪のない子供たちまで憎む気にはなれなかったのだ。
敬介は心の中で、子供に名前をつけていた。ユキナ、サユキ、ユウジ。そう命名していた。
「へえ、母親の顔になってるなあ」
「母性本能ってすごいな」
床に伏して子犬たちに乳を含ませる敬介の姿を映像でみて、皆、それぞれに感想を口にした。
子犬たちはたった数ヶ月で、人間でいえば中学生ほどの外見に育った。
そして、最初にゆきなが、次にさゆきが連れられていった。
残された男の子が時折、妙に切なそうに自分を見ていることを敬介は知っていた。
その年頃の男の子が持て余す性欲の強烈さも知っていた。
“イヌ”の発情期の自分の意思ではどうにもできないほどの性欲も知っていた。
それでも敬介はまさか、と思っていた。
ユウジ、と心の中で読んでいた男の子はまだ顔立ちにあどけなさを残していて、てんで甘えん坊のはずだつた。
だが、ある日、水を飲んでいる敬介の後ろから、ユウジが声もなくのしかかってきた。
その様子が、映像として皆の前で流されていた。
顔をそむけたくても、詩織の命令が敬介を縛っていた。
我が子に犯されるという忌まわしい場面を、敬介は映像で追体験させられた。
犯され、抵抗していた敬介の表情が次第に快楽に喘ぐメスのそれになっていくと、
失笑や苦笑があちこちで聞こえてきた。
(違う! あれは、この体が発情期になってたから!)
必死で否定しようとする敬介の心をよそに、そのときの狂おしいほどの官能が甦ってきて体は熱く火照った。
すでに充分濡れていた秘所にさらにとろとろと蜜がしたたった。
映像の中で敬介が自分の息子によって精を注ぎ込まれるのと同時に、現実の敬介も軽いアクメを迎えていた。
「フフ。このときのセックスで見事、ケースケは近親相姦の子を孕んだわ。
まだ目立たないけど、来月にでもなれば自由に動けなくなるくらいお腹も大きくなってるわね。
そうしたら二度目の出産だね。おめでと、ケースケ!」
「おお、おめでとう!」
「あははははっ、おめでとう。元気な子産みなさいよ!」
ようやく上映が終わったとき、敬介は俯いた。言葉にならない思いが涙となって溢れてきた。
「男の人でムラムラしちゃった人いるかしら? ケースケで性欲処理していっていいわよ」
詩織がそう言うと、男たちは顔を見合わせた。
「ほら、ケースケ。ちゃんと、お尻高くあげて!」
(や、やめろぉ! もう、もう充分だろう!?)
敬介は詩織を睨みながら、命令には少しも逆らうことができず従順に腰を高く突き出した。
「忘れたの、自分がメス犬だってこと? イヌは人間の役に立たなきゃね?」
詩織は敬介の乳房を指先でこねくりながら囁いた。
「あ……う……」
乳首からぴゅっ、ぴゅっと母乳が迸る。
「うぅぅ、うぅっ!」
「アハ。嬉しいんだ?」
「ねえ、詩織ちゃん。その、中出しはやっぱまずい?」
「馬鹿ねえ。そいつ妊娠してるんだから、いまさら中出ししたって平気じゃない」
「うん、お姉ちゃんのいうとおりよ」
詩織は頷く。
「それに、ケースケはイヌだもん。たとえいま妊娠してなくても、人間の男とのセックスじゃ、子供はできないよ。
遺伝子からあたしが作り替えたんだもん」
(そんな! 人間とのセックスで子供ができない……)
「なんでショック受けた顔してるの? 自分がまだ人間だと少しでも信じてたの?
バカねえ。人間に発情期なんてないでしょ。
もう少し自分が人間に飼われるだけのペットだってことを自覚しなさい」
そのとき敬介の背後で震える男の声がした。
「俺ちょっと、ヤラせてもらうわ……」
「ええ。どうぞ。ケースケも早くきてほしいって」
「あ゛……うぅ、う゛うぅぅ!」
首をひねって背後を向くと、男がズボンを下げるところだった。男の赤黒いペニスはすでにそそり立っていた。
(やだ、いやだぁ! 知り合いの男に犯されるなんて、そんな屈辱……うあああっ!?)
尻を鷲づかみにされたかと思うと、ずぶりとペニスが侵入してきた。
詩織に縛られた身体は逃げることを許されず、それを唯々諾々と受け入れてしまう。
すでに大量に分泌されていた蜜によって、男のペニスはスムーズにピストン運動をした。
「あ゛っ、あ゛っ、あ゛あ゛ーっ!」
たちまち身体を貫いた電流のような快感に敬介は舌を突き出して喘いだ。
激しく腰を使われるとその震動がむき出しの胸の双球にも伝わり、ゆさゆさと大袈裟に揺れた。
はずみでこぼれた母乳の滴がぽたぽたと地面に落ちた。
「へへ、これも獣姦になんのかね。でもま、気持ちいいからいいか。
ケースケ、遠慮なく出させてもらうぜ。受け取れよ」
「う゛ーっ!」
どくっ、どくっ、どくっ……
敬介の乳首からしたたるミルクと同じ色の液体が、蜜壺の中を満たした。
「ふう。やっぱオナニーより気持ちいいな。また今度、使わせてもらうぜ」
男が離れていくと、敬介は詩織の命令によって股間に逆流してきたザーメンを舐め取ることを強いられた。
それが終わると、次の男が敬介を犯し、精液を放った。結局、すべての男の精を敬介はその身に受け止めることになった。
そればかりか、女の一人も詩織に申し出て、黒光りする凶器のようなディルドーを受け取り、敬介を貫いた。
かつて口論になったときに敬介が売り言葉に買い言葉で「女は研究に向かない」といってしまった相手だった。
「あっ、あっ、あぅぅんっ……」
「かわいい声で鳴くのね、ケースケちゃんは。ふふっ、女は研究に向かないですって?
でも、お前みたいないやらしいメス犬じゃそれ以前の問題よね?
ほらほら、女の私に玩具で突かれてイッちゃいなさい。淫乱なメス犬らしく大声でよがりなさいよ!」
敬介は歯を食いしばって責めに耐えようとしたが、激しい腰使いの前にあっけなくイカされてしまい、
仕上げとばかり乳をしぼられて自分の母乳を大量に顔にぶちまけられた。
「ああ、すっきりした」
屈辱と涙にまみれてうずくまる敬介を後目に彼女は後ろへ下がった。
涙とミルクの混ざったものが敬介の頬の上を流れていった。
秘裂には愛液まみれのディルドーが乱暴に突き刺されたままだった。
その哀れな姿をかつての友人たちは笑いながら携帯のカメラで撮影していた。
彼らの意識の中で敬介はもはや人間ではないのだった。
◇
その晩、敬介は、餌の皿に口をつけなかった。
餌に背を向けうずくまっていると、女の使用人が皿を下げにきた。敬介の世話を担当している痩せぎすのメイドだった。
「ケースケ、お座りなさい」
メイドに命じられると、敬介はそれに逆らえなかった。
のろのろと身を起こし、イヌのお座りの姿勢でメイドを見上げた。
いつもこうして敬介を言葉で拘束してから、餌の残りを捨てたり、水を取り替えたりするのがこのメイドの役目だった。
敬介はうつろな目でメイドが仕事を終えて出て行くのを待っていた。
すると、メイドは何げない素振りで皿を持ち上げながら、低い声で敬介に話しかけてきた。
もちろんそんなことは今までなかったことだった。
「あなたを逃がしてあげるわ」
「!?」
敬介は自分の耳を疑った。
「今夜、詩織様はいま外出されてるわ。いまのうちにお逃げなさい」
メイドが敬介の首につけられた革の首輪に触れると、首輪は空気に溶けるように消えてなくなった。
(この力は!)
「ええ。ノウブルの力よ」
メイドは言った。
「私の父はノウブルだったのよ。私は半分だけその力を受け継いだの。
詩織様に比べたら、ごく弱い力だけど。私の力で一時的に詩織様の現実干渉を中和できるわ。
完全には中和できなくても、あなたがこの館を逃げ出すには充分なはず」
(そんなことをしたら君が詩織に……)
「私のことは心配しないで。うまくとりつくろう方法はあるから。さあ、立って」
促されて、敬介は立ち上がった。
少しよろめいたが、敬介は二本の足で立つことができた。久しく忘れていた感覚だった。
「立てる……! それに言葉も!」
「本当はあなたの本来の肉体に戻してあげたいけど、私の力じゃ改変された肉体の組成までは操作できないの。
待って、その格好で外は歩けないわね」
メイドが目を閉じ、そっと敬介に触れると、敬介の体を黒っぽい靄が包んだ。
靄は凝縮して幾重もの黒い紐となり敬介の体に巻きついた。
紐同士が融合するように変化して、服の形をとっていった。
ブラウスの上にタイトスカートとジャケットのスーツ姿で、会社務めの女性風の服装が敬介に着せられた。
メイドの指が敬介の唇に触れると、赤く鮮やかなルージュがそこに引かれ、丁寧なメイクが顔全体に施された。
イヌの尾は服の下に隠され、耳も髪に埋もれて目立たなくなった。
スーツの上からでも異様に目立つ胸の大きさを除けば、敬介は颯爽としたキャリアウーマン然とした姿になっていた。
「いまからあなたを館の外へ送るわ。私にできるのはそこまで。あとはあなた次第。
私の力は真夜中までには切れて、あなたは元に戻ってしまう。それまでに詩織様に見つからないところまで逃げて。
詩織様から離れていれば、時間はかかるけどいつかは詩織様の強制力も薄らいでいくはず」
「ありがとう……なんてお礼を言ったらいいのか……」
メイドは微笑んだ。
「私は半分は人間だもの。ノウブルの気まぐれで同じ人間が苦しめられるのを見てるのは辛いから」
「だったら君も一緒に──」
メイドの面に寂しげな表情が宿ったのを見たと思った瞬間、敬介の周囲の光景が一変した。
敬介は一人で館の壁の外に立っていた。
外灯に照らされた影が長く伸びていた。
メイドは、敬介が人間として振る舞えるのは真夜中までの時間だと言っていた。
あまり時間に余裕はなかった。
敬介は心の中でメイドに礼と別れを告げると、街の明かりの見えるほうへと足早に歩き出した。
二本の足で歩けるということが、たまらなく嬉しかった。
人通りのある街路に出ると、敬介は思わず後ろを振り向いた。誰かが追ってくる気配はなかった。
街のネオンと行き交う人の気配がひどく懐かしかった。人の世界に帰ってこれた、と敬介は思った。
近くに見えた公園の時計は、一〇時少し前の時間を指していた。
「でも……。これから、どこへ行ったらいいんだろう……」
◇
思いがけない解放から、一時間ほどが経った。
いま、敬介はとあるアパートの前で逡巡していた。
そこは敬介の中学時代からの親友が下宿しているアパートだった。
水上春彦という名の友人である。
中学、高校と一緒の学校に通い、大学に進んで以降もよくつるんで遊びにいったりした仲の友人だった。
敬介は最初、実家へ向かおうとしていた。
だが、頭の中からすっぽりと抜け落ちたように、実家がどこにあったかを思い出せなくなっていた。
以前詩織によって精神をいじられたとき、自分の家や家族に関する記憶を消されてしまったのだった。
また万が一実家に帰れたとしても、詩織に居場所を嗅ぎつけられる危険性が高かった。
大学の知り合いを頼ろうにも、彼らはすでに詩織によって取り込まれているのは明らかだった。
敬介は自然と、かつてよく訪れた親友宅を訪れていた。
意を決すると、敬介は春彦の部屋の前に立ち、チャイムを押した。
チャイムの音が響くのを確認すると、敬介は扉の前で待った。
やがて、奥のほうからごそごそと人の動く気配が近づいてくると、がちゃりと扉が開けられた。
ボサボサの頭を掻きながら、Tシャツにトランクス一丁の気の抜けた格好をした男が出てきた。
「こんな時間にどちら様?」
「──春彦!」
敬介は長年の親友の名を呼んだ。
「え、水上春彦は俺だけど。おたくは?」
「信じられないかも知れないけど……オレだよ。敬介だ」
「お姉さん、デリヘルの人? 悪いけど、呼んだの俺じゃないよ。お隣と間違えたんじゃない?」
そう言いながら、春彦はしきりと敬介の胸にちらちらと目をやっていた。
男だった敬介には、春彦のそういう反応は責められなかった。
自分が逆の立場でも、突然自宅にこんな胸の大きな女が尋ねてきたら、胸元に目がいってしまうことだろう。
といって、じろじろと胸を観察されて恥ずかしくないわけがなかった。
自然と敬介は腕組みをするような格好で胸のふくらみをわずかなりとも隠そうとした。
「じゃあ俺、テレビ見てる途中だったから……」
「待ってくれ。待ってよ、“そばめし君”」
奇妙な名前を敬介が口にすると、あきらかに春彦は動揺した。
「なんでお姉さんがそのハンドルネームを?」
「言っただろ。オレは敬介なんだよ。お前の親友の。中学からの腐れ縁だから、たいがいのことは知ってる。
自転車二人乗りでこけてできた膝の傷のこととか。なんならお前のAVの趣味だって言い当ててみせようか?」
「そんなこと知ってるのは……本物の敬介だけだぞ!
だからって、俺の知ってる敬介はそんな巨乳の色っぽいお姉さんじゃねえ」
「いろいろあったんだ。いろいろと」
春彦はそれまで半開きだった扉を大きく押し開いた。
「とにかく中に入んなよ。ゆっくり話を聞かせてくれないか?」
一歩ごとに派手にバウンドする胸に視線が刺さるのを感じながら、敬介は玄関に入り、ヒール付きの靴を脱いだ。
勝手知ったる家のように敬介はテレビのある居間へと向かった。
◇
「……つまりノウブルになった詩織ちゃんに、そんな姿にされたってことなんだな?」
「ああ……」
居間とは名ばかりの手狭な六畳間で敬介と春彦は卓袱台を挟んでいた。
訝る春彦に、敬介はこれまでの経緯を話して聞かせたのだった。
勿論、口に出せないことも沢山あった。
一匹のメスとして牡とまぐわってしまい、あまつさえ出産までしてしまったことなど、
親友に話せることではなかった。
「最近、敬介から連絡がないからさ、てっきり有紀ちゃんとよろしくやってるのかと思ってたよ。
まさか、そんなことになってたなんて……」
「…………」
どこかへ連れ去られた有紀のことを思って敬介は唇を噛んだ。
「せめて力になるぜ、敬介。俺にできることがあれば言ってくれ。
もちろん、元の姿に戻れるまで、この家に居候してくれて構わないぜ」
「ありがとう、春彦」
敬介は男の時の感覚で、春彦の手を取り、力強く握りしめた。
手を握られた春彦はちらちらと敬介の顔と胸とのあいだで視線を往復させたかと思うと、
真っ赤になって目を逸らしてしまった。
そんな春彦の困惑ぶりを敬介は見逃していた。