これで何度膣内に射精(だ)されたのだろう。
 秋流(あきる)は上に乗っている男の姿を眺めながら、ぼんやりと考えた。既に快感とかそんな段階はとっくに突き抜けて、全身を包むのはただ気だるい虚脱 感だけだ。
「いい加減にしろよ――瑞葉(みずは)」
「まだそんな口を叩けるのか? よぉし……」
 身長160cmの秋流をはるかにしのぐ、190cm 近い長身と90kg を越える体重で彼女を押さえつけている男は、深く挿入したまま腰をゆっくりと回転させる。
「い、いや! それ、やめ……やめろって!」
「可愛い子はそれなりの口のききかたってものがあるんだぜ? 秋流も前は俺にそう言っていただろう」
 込み上げてくる嘔吐感に耐えながら秋流は精一杯の抵抗をする。だが、体重差があり過ぎる。彼と自分の力の差は歴然だ。
「すごいぞ。秋流のおまんこの奥、こりこりしている……先が当たって、くそ……も、もう出ちまいそうだ」
「ダメ、もう出さないでくれ。あれが乾いて足が痒いし……」
 言ってから秋流は、自分の失言に気がついた。
「そうか? じゃあ風呂に行こうか」
「あ、こらぁ! ダメ、それダメって……んっ、はぁぁぁぁっ!」
 正常位から腰の下に手を回され、ぐいと持ち上げられる。逞しい塊が内部でうねり、秋流のポイントを刺激する。
「ほーらほら! 秋流、こういうのに弱いだろ。いいんだぜ、もっと声を上げてさ。もっと秋流の泣く声が聞きたい」
「誰が、泣く、もんかっ!」
 必死で虚勢を張るが、疼きはやがて快感へと変わってゆく。
「いいぜ、いいぜ……秋流のその顔、たまんねぇよ。犯られてるって顔で、ますます固くなっちまうじゃねぇか」
 厚い胸板、太い腕、逞しい胴。そして、日本人離れしたたくましいペニス。
 つい、一週間前まで秋流がそうであった身体を、数段上回る体格だ。
 あんなに愛らしかった瑞葉が、今は逆に自分を組み敷いている。
「わかったよ。俺が嫌がっても秋流がセックスをし続けた理由がな。確かに……こいつはいい。たまんねぇ……」
 瑞葉はそう言うと腕に力をこめ、そのままベッドから立ち上がった。
「あ、くあっ!」
「奥まで入るだろ? おい、どうなんだよ」
 男だった時にはよく瑞葉に対してしたことがある体位、駅弁だ。嫌がる瑞葉をもっといじめたくなり、失神するまでそのまま突くこともよくあった。だが、こ んどはそれをされる番だ。
「くっ、苦しい! なんか、うくっ! ……やめ、やめてっ!」
「誰がやめるもんか。秋流の中、良すぎるぜ……他の奴とは比べ物にならないな」
「ほ、他の、って……!」
 秋流の心の中にざわりと蠢くものがある。
「おっ? 嫉妬してくれてるのか? 嬉しいな。そうだぜ、俺は他の女ともセックスしているぜ」
 軽々と秋流を抱き上げた瑞葉は、彼女を揺さぶりながら風呂場へと歩いてゆく。
「あんまり犯り過ぎると秋流が壊れちまわないか心配でさ。だから他の女で代用しているってわけさ。秋流もそうだっただろう?」
「……」
 そのとおりだ。
 かつて自分が男だった時、可憐な女性だった瑞葉を壊すまいと、他の女達で有り余る性欲を解消していたのだ。
「しかし、秋流もすっかりしおらしくなっちまったな。ははっ。それとも俺が変わったのか?」
 一週間。
 そう、瑞葉は言っていた。

  ◇◆◇

 約束の日は――昨日だった。
 なのに、自分は男になった瑞葉に抱かれている。八日間、瑞葉が帰宅してからは食事や排泄の時さえも責め続けられている。
「もう一週間経ったのに、男に戻る気配が無いのをおかしいと思わないのか?」
「え?」
 半ば虚脱状態だった意識が、現実に引き戻される。
「そうさ。お前は俺の子を孕んでいるんだよ。妊娠しちまったらゲームオーバーだ。秋流はもう、女として生きるしかないんだ」
「あううっ!」
 瑞葉の腿が震え、また中に精が放たれる。
 もう届きはしない、無駄な精液。ただ快楽のためだけに流される精液。
「あ……」
 体の中で蠢く不思議な感覚がある。
 秋流は悲しみと悦びが入り交じった涙をこぼした。
 孕まされてしまった。
 しかも、元は女性の『彼女』であった人に。
「流産(なが)れちまっても、また孕ませてやる。お前に何人も子供を産ませてやる。これが俺達の……未来ってやつだよ!」
 再び動き始めた瑞葉に翻弄されながら、秋流はぼんやりと、

(子供の名前、考えなくちゃ……)

 と考えていた。

 夜はまだ、長かった――。


 Fin.

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