「お兄ちゃん。お参りに来たよ」
白いブラウスを着た少女が花束を手に持ち、ある墓の前に立って言った。
年は中学か、高校生くらい。化粧気はまるでないのに、ぬめるような白くなめらかな肌も、桜色の唇も目を見張るほどに美しい。
つやのある黒い髪は肩口で切りそろえられ、風に揺れている。
「もうすぐ一年経つね。お兄ちゃんが死んじゃってから……」
少女は少し足を広げ、腰を屈めた。スカートの裾がまくれあがり、膝が見えている。その動作は美少女に似つかわしくない乱暴な印象があった。
そして花を墓石の前に置き、両手を合わせて目を閉じて祈る。
風の音、鳥の声。そして小さな、規則正しい機械音。
「お兄ちゃん……兄貴……何で死んじゃったんだよぉ……」
閉じた目から涙がこぼれた。
震えている膝が地面につき、少女はスカートの裾から股間に手を伸ばした。
「兄貴……ああ、兄貴……俺、こんなんじゃ満足できない」
手が股間で妖しく蠢いている。
墓の前で、少女が自慰をしているのだ。
「勝手に女にして、 犯して、 俺を兄貴無しじゃ生きていけなくさせて、んんっ! はぁ……か、勝手に先に死んじゃって。バカ野郎……」
少女は周囲に人の目がないのをいいことに、スカートを大胆にまくりあげて黒いレースのショーツを下ろし、
紫色のバイブレーターが挿っている無毛の股間をあらわにした。
「見て、兄貴。兄貴が“女”にした、俺のおまんこだよ。痛かったよ。
舐められたり指を入れられていじられたりして、気持ち悪かったよ。ひげをこすりつけられるのなんて、最悪だった。でも……」
豊かな胸をおおうように手を置き、ゆっくりと揉む。
「そのうち、兄貴に犯されるのが、変なことをされるのが気持ちよくなってきちゃった。
中出しされるのだって、いつの間にか平気になってた。兄貴、結局一度も避妊に気をつけてくれなかったよな。妊娠しなくて助かった……けど……」
股間からぴちゃぴちゃと音がして、白い砂の上に雫が落ちてゆく。
「もう、ザーメンを注いでくれなきゃダメなんだ。俺は、兄貴の生のザーメンでなきゃ、どんなに気持ち良くても、何度イッても満足できないんだよぉ!」
耳に心地好い涼やかな甘い声なのに、男言葉で、しかも卑猥な台詞を少女が吐いている。
「兄貴……ああ、兄貴、お兄ちゃん……もっとあたしを見て。あたし、こんなにいやらしい体になったんだよ。
お兄ちゃんが望んでいた通りの、大きな胸にもなったし、こんなおっきなバイブでも奥まで入るようになったよ。
それに、すごく、すっごく感じやすくなって……はぁ……」
体がびくん! と跳ねあがり、ぶるぶるっと震えた。
宙を見つめる虚ろな瞳には、明らかな欲情の色が湛えられていた。
「はぁ……はぁ……イッちゃった……。ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの言いつけ通り、セックスに誘われたら断ってないよ。
もう、何人に抱かれたか、おぼえてないくらい。百人までは数えたけど、それ以上は数えてないの。
でも、お兄ちゃんに言われたとおり、どんなことをされたか、したか、ちゃんと日記をつけてるよ」
手が再び動き始める。
「嫌だけど、フェラもするよ。パイズリもするの。みんなあたしの中に、生で出そうとするよ。
お兄ちゃんが言うように、全部にっこり笑ってやってあげてる。
ザーメンだって全部呑み込むし、何回だって中出しさせてあげてる……。あたしのお尻も、みんな褒めてくれるよ。
気持ち悪いけど、だって、それって、お兄ちゃんの……んぅっ! い、いいつけ、だ、だか……らはぁっ!」
胸を握り潰すようにして、喘ぎ声の中から言葉を絞り出す。
「だから、お兄ちゃん。きて! あたしをほじくって! 子宮の奥まで、お兄ちゃんの濃くって臭いザーメンを、たっくさん注いでよぉっ!
でないと、頭がおかしくなっちゃう」
少女の顔は泣いているようにも、笑っているようにも見える。
涙と鼻水で顔がぐしょぐしょになっているにもかかわらず、彼女は一人、墓の前で激しいオナニーを続ける。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……兄貴ぃ! 勝手に女にして、調教して、勝手に自殺なんかしやがって……
人を兄貴無しじゃいられなくして、にげ……逃げるなんて、ひ、卑怯だ……よぉ……」
前のめりになりながら、胸を揉む左手も股間の右手も止まらない。むしろ激しさは増す一方だ。
「あ、はっ……あ、兄貴の前だと、他の男に抱かれているよりずっと感じるよ……お、俺、もう完全にマゾだよ。兄貴のせいだよ。
あ……兄貴が俺をこんなふうにしたんだぞ。責任……とってくれよぉ! あ、ふぅぅぅぅぅっ!」
少女の体がびくびくっと震えた。
「また……イッちゃった。家だとなかなかイけないのに、兄貴に見られていると思うと、何回でもイけちゃうよ」
荒い息を吐きながら、少女はねっとりとまとわりつくような媚びた声を出す。
「なあ、兄貴。兄貴が俺を襲って、ケツの穴にぶち込まれた時はめちゃくちゃ焦った。そのまま何回もオカマ掘られてさ。
次の朝、目が覚めたら女になってるし。逃げようと思ったら、兄貴にまた犯されてさ。女になってもケツ掘るし、兄貴ってすげー変な奴だって思ったよ」
砂の上に落ちていたショルダーバッグの中から、タオルと替えの下着を取り出し、
顔と股間を拭ってからバイブをタオルに包み、下着をはいて汚れたタオルと下着をバッグの中に詰めた。
「結局、最後までどうやって俺を女にしたか、理由も方法も話してくれなかったな。
兄貴はしゃべるより、俺を犯す方に忙しかったもんな。おかげで、こんなに淫乱な女の子になっちゃったわけだけど」
墓に近寄り、墓石を撫でる。
まるでペニスを愛撫するように、淫らな手つきで側面に刻まれた兄の名を触りな がら少女は言葉を続けた。
「俺、ダメなんだ。兄貴以外の男に触られるだけでも、気持ち悪くなる。電車に乗るのだって怖いくらいなんだ。だから、学校にも行ってない。家の中でひとり
ぼっちなんだ。
でも、体が疼くんだよぉ……どんなにがまんしても、一週間もおまんこしないと狂いそうになるんだ。そして、知らない男に股を広げて、チンコを突っ込まれ
て……はぁぁ……」
溜め息さえも、蜜を含んだように甘い。
「なあ、兄貴……。もしかして、俺が反抗しなくなったから嫌になったのか? だから自殺したのか?」
少女が問いかけても、もちろん墓石は何も語りはしない。
「俺……あたしが女言葉をちゃんとしゃべれるようになってから、お兄ちゃん、ちょっとおかしかったもんね。
その時気付いていれば、お兄ちゃんに、自殺、なんか……させなかった……」
声に嗚咽が混じり始める。
「せめて……せめて、兄貴の、お兄ちゃんの赤ちゃんでもいればよかったのに。ふふっ……おかしいね。
本当の兄弟なのに、あたしは男だったのに、赤ちゃんが欲しいだなんて。あたし、頭がおかしいんだね」
少女の頬に大粒の涙がこぼれ、地面へと落ちてゆく。
「もうあたし、どうしていいのかわかんないよ。もう、あたし、男になんか戻れない。
でも、男だった事を忘れられない。お兄ちゃんにそう躾られちゃったから。でも、女にもなりきれない……」
地面に座り込んで、少女は墓石を見上げる。
「ねえ、お兄ちゃん。あたしを永遠に縛り付けるために自殺したの?」
そのまましばらく墓を見つめていた少女は、遠くから聞こえてくる鐘の音で我に返り、立ち上がって足についた砂を払った。
そしてもう一度墓に向かって手を合わせると、静かに立ち去っていった。
やがて砂に染みた体液も渇き、花束と乱れた砂の他は、そこに誰かがいたという痕跡はなにも残らなかった。
初夏の風が墓地を吹き抜け、澱んだ空気を流し去ってゆく。
梅雨がやってくる、一週間前のできごとだった。
おわり