「あれ、由里ちゃん、ちょっとムネがふくらんでる?」
「ひあっ!」
水着の薄い布地ごしに友達のナオの指が、あたしの胸をまさぐった。
最近ものすごく敏感になっていた場所をもぞもぞと擦られて、あたしは悲鳴をあげて身をよじってた。
「な、なにすんの、ナオ。信じらんない!」
「えへへ。いまプニッて感触したァ。由里ちゃん、オッパイふくらんできてるね」
「う……」
かぁ、と自分の頬が赤くなってくのがわかる。
そんなあたしの反応を見て、ナオはにやにやしてる。
そう、ナオのいう通り。なんだかここ一ヶ月くらいで、あたしの体は駆け足で、女の体になってるみたい。
最初は気のせいだと思いこもうとしてた胸のしこりが、いまじゃ形がわかるくらい大きくなって、乳首のまわりがぷっくらふくらんできちゃってる。
乳首自体も、毎日ちょっとずつ大きくなってるみたい。
胸の内側におできでもできたみたいに、いつも痛痒い感覚が続いてる。
毎晩お風呂のとき鏡で自分の体を見るけど、昔はおちんちん以外、男の子たちと同じからだだったのが、
一日ごとに胸やお尻がふくらんでるのが分かる。
お尻だって、びっくりするくらい丸くなってきた。
胸だって最初は乳首のまわりだけが腫れたようになってただけなのに、
いまじゃ鏡に向かって横を向くと、なんだかオッパイのラインがうっすらと出てきてるみたい。
あたしは男の子みたいにまっすぐな手足や体がいいのに、あたしの身体はそんなことお構いなしにどんどん女になってくみたい。
どうして、頼んでもいないのに、あたしの身体は女になっちゃうんだろう。
あたしは水着に着替えおわったナオを見た。
ナオもあたしと同じだ。
普段の服じゃわかりにくいけど、水着になると、ちっちゃなふくらみかけのオッパイの形が見える。
きっとナオも、恥ずかしいんだ。だから、あたしの胸をさわったりして、ごまかしてる。そうにちがいない。
ナオの向こうでは英美子が着替えてた。
英美子は、あたしたちより一足先に、女の身体になってる。
はっきりとわかる二つのふくらみが胸から突き出してて、歩くとそれが揺れたりする。
英美子はたしか、小学校のとき、初潮がきたっていってた。
だから、中学に上がって最初の日から、英美子は“調教”を受けてた。
あたしもいつか、そう遠くないうちに英美子たちの仲間入りをしちゃうのかな……。それはちょっと……なんだかいやだな……。

暑い陽射しの中、あたしたちはプールに飛び込んだ。
水の中は気持ちよくて、自分の身体のことなんて忘れて、手足を伸ばしてあたしは泳いだ。
自由遊泳は大好き。ちょっと泳いでは、合間にみんなと水を掛け合ってふざけたりする。
あたしたちの声がプールサイドに響き渡ってる。
女の子だけしかいないから、みんなの笑ったり叫んだりするのが集まって本当に「黄色い声」になってる。
ふと隣を見ると、泳ぎの苦手なナオが、ビート板にしがみついてじたばたしてた。
それを見ると、悪戯心がわきおこった。横合いからナオに近づいて、ナオに抱きつく。
「きゃあっ」
と、ナオはびっくりした拍子にビート板を手放していた。
更衣室でのおかえしだ。
と思ったら、ナオはビート板のかわりにあたしにしがみついてきた。
あ、そんなにきつく抱きついてきたら……。
ナオの、女の子の身体はびっくりするくらい、やわらかかった。
きっと、あたしの身体も同じ。
ナオとあたしの、ちっちゃなオッパイが触れ合って、ジンと胸が疼いた。
「こら、そこ。危ないから、プールでふざけないの!」
先生のするどい声が飛んできた。
「香月。斎藤。上がってきなさい」
あたしとナオは水から出て、先生に頭を下げた。
先生はあたしとナオの頭をコン、コンとゲンコツで叩いた。
「まったく。あなたたち、女の子でしょう。男の子みたいにふざけたりしちゃダメよ」
照りつける太陽の下で先生のお説教。全身からポタポタと水がしたたって、足元に小さな水溜まりを作ってる。
「まったく。もっとお淑やかにしないと、男の子たちに相手にしてもらえなくなるわよ」
女の子なんだから、もっと女の子らしく。
こんな言葉をいままで、何度聞いてきたんだろう。
女の子は女の子らしくしなきゃいけない。
そして、あたしは女の子。
だから、あたしは女の子らしくしなきゃいけない……。
あたしの心のどこか奥底で、まわりの大人たちが言う言葉へ反発する感情がくすぶってるみたい。
でも……。
「二人とも、返事は?」
先生にきつい目で睨まれて、あたしたちは顔を見合わせた。
「……はい……反省してます」
あたしは先生にぺこりと頭を下げた。
反発しても、しょうがないよね。ずっと昔から、そう決まってるんだし。
そして、あたしが女の子なのは変えようがないんだから。
もし自分が男だって言い張っても、もうすぐオッパイやお尻がもっと大きく丸くふくらんできて、隠しようがなくなってしまう。
あたしたちは、男たちの決めたルールに従わなくちゃいけない。
あたしたちがちゃんと反省したのを見て、先生はあたしたちを解放してくれた。
「おいでよ、由里ちゃん。ナオ!」
プールの中から友達があたしたちを呼んだ。
ひんやりと気持ちのいい水の中に戻ると、なんだか暗い考えはどこかへ行ってしまった。
それから後は、先生に怒られるほど羽目を外すこともなく、みんなと一緒に楽しくプールで泳いだ。
いつもと同じ、夏の学校の風景。
いつもと同じようにプールの後の眠い授業を過ごして、元気が戻ってきた頃には下校時間になってた。
ナオに手を振って別れを告げると、あたしは家に急いだ。

家に帰ってきてすぐに、宿題を開いた。
さっさと片付けるつもりだったのに、途中で難しい問題が出てきて、鉛筆が止まってしまった。
ほんとは答えが分かるような気がするのに、いざノートに答えをかこうとすると、頭の中が真っ白になってしまう。
教科書やノートのページをあちこちめくってなんとか少しずつ分かってきたけど……。
「あーあ。なんだか疲れちゃった」
そうだ。息抜きにゲームでもしよう。
あたしは隣にある、お兄ちゃんの部屋のドアをノックした。もちろん返事はない。
部活に入ってるお兄ちゃんの帰りは、いつも遅い。
ドアを開けると、あたしはお兄ちゃんのプレイステーションのスイッチを入れた。
ふと、その近くに落ちていた雑誌に目が留まった。
「これって……」
それは、いつも転がってるゲームの雑誌じゃなかった。
表紙には見たこともないような格好をした半裸の女の人の写真がのっていた。
あたしは好奇心に負けてその雑誌を手に取っていた。
「お兄ちゃんも男の子だから……やっぱりこういう本、見るんだ……」
パラパラとページをめくると、Hな格好をした女性の写真が次から次へと出てきた。
男の人は、こういう写真を見て、気持ちよくなるっていうことは知ってる。
でも、身近にいるお兄ちゃんが実際にこういう雑誌を持ってるのは、ちょっとびっくりした。
いつもは真面目なお兄ちゃんも、こういう雑誌を見ると、自然におちんちんが大きくなってきて……それを、自分で慰めたりするのかな。
写真の中の女の人は、オッパイを誇らしげに手で持ち上げて、微笑んでいた。
そのときキュッと身体の奥で甘酸っぱい感覚が生まれた。
何年かして、あたしのオッパイが歩くだけで揺れるくらい大きくなったら、それを見て、お兄ちゃんはどう反応するんだろう?
……やっぱり、おちんちんが大きくなっちゃうのかな?
ううん、お兄ちゃんだけじゃない。男の人たちみんな。
あたしたち女の子は、大人になったら、男の人たちのために尽くさなきゃいけないことに決まってる。
男の人のエッチな気分を慰めてあげるのは女性の大切な務めだって何度も学校で習ってきた。
でも、いまこのエッチな雑誌を見てたら、そのことが痛いほど実感できような気がする。
あたしは自分の胸をそっと押さえた。
さっきから、乳首がぴんっと固くなってて、そこのまわりがジンジンとする。
エッチな写真を見て、あたしまでエッチな気分になってた。
あたしの中のあたしは、男の子になりたがってる。
こんなエッチな写真でおちんちんを大きくしたり、大人になって女の人とエッチなことをしたいあたしがいる。
だけど、あたしは女の子に生まれたから、男の人にさせてあげる側。この写真の女の人と同じなんだ。
そう思うと、なぜか余計にエッチな気分になってきた。
「はぁ……」
胸の奥から、熱いため息が出てきた。
雑誌のページをめくると、裸の女の人は、タンクトップをはだけて、片手でオッパイを自分で揉みながら、もう片手を股間にさしこんでいた。
あたしは床に腰を落としたまま両脚を開いて、写真と同じようにした。
ミニスカートをめくって、パンツの上からおしっこの出るあたりを指で押さえた。
そこは肉がついてふっくらとやわらかくなってて、自分で触ると、男の人を受け入れるほうの穴はすぐ分かった。
最初はどうすればいいか分からなかったけれど、指をゆっくり上下に動かしてパンツの真ん中をすると、ジワァとそこが気持ち良くなってきた。
最初は二、三回、擦っただけで指を止めていた。
でも、その行為は思ったよりずっとずっと気持ちよかった。
右手でおっぱいに触ると、ツンと大きくなった乳首が指で擦れて、痛かった。
痛かったけど、それは気持ちがいい痛さだった。
あたしは夢中でパンツの上で指を往復させた。
きゅうう、と甘酸っぱい気持ちよさが腰から下に集まってくるみたいだった。
夢中でそうやって擦ってるうちに、あたしは指先がぬれてることに気がついた。
指を止めて、まじまじとパンツを覗き込んだ。
すると、両脚のあいだのちょうど割れ目の形に沿って、うっすらとパンツに濡れたしみができていた。
「あっ……」
驚いたあたしはパンツを腿までおろした。
一瞬だけど、パンツと股間のあいだに、涎みたいに液体がつっと架け橋をつくってた。
あたしの“女の子の場所”は、しっとりと濡れていた。
『女の子はエッチなことを考えると、あそこが濡れてきちゃうんだよ』
ナオやほかの友達から聞いたことはあったけど、自分自身の身体にそれが起きるのは初めてだった。
どうしよう……でも……。
何度も迷ったあたしは、結局、もう一度裸のそこを指でこすった。
「ふぁぁ……」
自分でもびっくりするくらいエッチな声が出てきてしまう。
「あたし、エッチな女の子だ……女なんだ……」
割れ目のうえにある、小さな豆粒か虫刺されみたいにふくらんでる場所を、そうっと指で撫でた。
「ふぅっ……!」
痛いのと甘痒いような感じとが、半々くらいだった。
もう一度おそるおそるそこを指で圧迫してみると、今度は最初のときより気持ちよかった。
少し指を離して、息を整えてから、もう一度そっと押して……。
「やぁっ!?」
腿の付け根がピクッとなった。
なんだろう、この感覚。
あたしは息もたえだえになりながら、雑誌のページをめくった。
エッチな女の人の体にベットリと白いヌルヌルがかかっている写真だった。
これは、男の人が気持ち良くなったとき出してくれる、“精液”。
あたしが男の子だったら、気持ち良くなってピュッピュッて出せるけど。
でもあたしは女だから、あたしの手や口やあそこ、体全部で男の人に奉仕して、精液を出させてあげなくちゃいけない。
それがあたしたちの務めだから。
幻覚のように、見えない男の人の手が荒々しくあたのオッパイとあそこを擦るのを感じた。
次の瞬間、頭の中が真っ白になった。
「や……あっ……ああぁ…………」
あたしは男の人が悦びそうなエッチな声を出して、ぎゅっと目を瞑ったまま、ピクンピクンと何度も腿を震わせた。





目を開けたとき、そこはお兄ちゃんの部屋じゃなくなっていた。
ぼんやりと見覚えのある、白い壁に囲まれた空間……。
「あ……?」
違う。そもそも、あたしには、お兄ちゃんなんていなかったはずだ。
黒い影のようなモヤモヤに包まれた人のようなものが何体もあたしを取り囲んでいる。
あたしは焦ってパンツを上げた。
さっきの行為の余韻で、まだ全身が火照ってる。
「お楽しみだったようだな、由里和樹君」
由里和樹って……?
「あたしは……」
「あたし、か。なるほど。君は少女として十数年を過ごしてきたのだからな」
誰かが冷たい声で告げた。
男の声みたいだけど、どんなに目をこらしても、黒いモヤモヤにしか見えない。
だけど……。
この黒いモヤモヤを見るのは始めてじゃない……前にもどこかで……。
「!」
その瞬間、あたしの頭の中に、奔流のような勢いで記憶が流れ込んできた。
あたしは……いや、俺は。本来の俺は、こんな少女なんかじゃない!
俺は、由里和樹。特務機関の工作員だ。
ロルシカ共和国による核実験データを入手して国に帰還する直前に、不覚をとって敵に捕らえられてしまったのだ。
ロルシカ国家情報院の連中は、俺が自決すらできないよう、俺の意識をヴァーチャルリアリティの世界に放り込んだのだった。
俺は自分の姿を改めて確かめた。
か弱い、思春期を迎えたばかりの少女の肉体だ。
発達をはじめたばかりの乳房の感覚はヴァーチャルとは思えないほど、鮮明に感じられる。
黒いモヤモヤが再び喋り始めた。
「その様子だと、ようやく自分が何者かを思い出したようだな」
「よくも俺をこんな姿に……!」
「フフ。そういうわりには、つい先ほどまで、お楽しみだったようだがな」
「くっ」
そうだ。俺は、こいつらによって少女の姿にされ、偽りの世界へ放り込まれた。
俺が“俺”としての意識を保っていられたのは、最初の数日だけだった。
すぐにVR世界の圧倒的な情報量が俺の自意識を洗い流し、
俺は“香月由里”という少女としてなんの疑問もなくあの世界で暮らすようになっていた。
「いい加減にしろ。俺を現実世界に戻せ!」
「ククク……。いいことを教えてやろう。お前が、VR世界で少女として十年以上の歳月を送るあいだ、現実世界ではわずか三時間が経過しただけだ」
「三時間……」
「どうだね。君らJ国の諜報ルートについて喋る気になったかね?」
「人違いだ! 俺はスパイなんかじゃない!」
「クックックッ。そうか、そうか。いいだろう。尋問が始まってから、まだ三時間だ。すぐに情報提供に協力してもらえるとは思っておらんよ」
「だから、俺は!」
「あちらの世界でもう10年ほどゆっくりしてきたまえ」
「なっ!?」
「あちらの世界で従順な女性として教育される君はやがて、男性に命じられれば反抗など思いもよらず従順に従う扱いやすい女になる。
男に対して絶対服従を擦り込まれた君に、記憶を戻してやれば、君は唯々諾々と我々の求めに応じて情報提供してくれることだろう。
なに、我々にとってはあと三時間ばかり待つだけだ」
「な……ま、待って!」
誰かが俺の肩を叩いた。
振り向くと、お兄ちゃんが背後に立っていた。
「こらっ、由里。また勝手に僕の部屋に入って」
「あ、お兄ちゃん……」
お兄ちゃんがあたしを見下ろしてる。
口をへの字にしてるけど、本気で怒ってるわけじゃないみたい。
違う。俺はナニを考えてる。これは仮想現実だ……。
白い壁と黒いモヤモヤが薄れ、かわりにお兄ちゃんの部屋が再構築された。
「由里。部屋に落ちてたもの、勝手にいじったりしてないよな?」
「うん」
あたしは……俺は、“お兄ちゃん”の言葉に返事をした。
頭がクラクラする。
『自我テンプレートへの同調56%。進行は順調です』
どこかで冷たい声が響いたような気がした。
なんとかして本来の意識を保たないと……俺は、あいつらの言いなりにされてしまう。
「どうした、由里。なんだか夢でも見てたみたいな顔してるぞ」
「え、ううん。そんなこと……」
かすかなお兄ちゃんの汗の匂い。カーペットの感触。そよ風にそよぐカーテンの衣擦れの音。遠くで泣いてるセミの声……。
すべてがとってもリアルだった。
さっきの白い部屋で黒い影と交わした会話のほうがよほど、幻想じみて思える。
「せっかくだから、ゲームで遊んでくか?」
お兄ちゃんの問いにあたしは「うん」と答えていた。
どうしよう……。
このままじゃ、またあたしは、この世界に飲み込まれてしまう。
自分が誰だったかを忘れちゃう。
そうだ。いまのうちに覚えてることを紙に書いて……。
ふと、お兄ちゃんがあたしのほうを凝視してるのに気付いた。
お兄ちゃんはあたしの胸のあたりをじっと見てた。
薄手のキャミソールに、育ちはじめたオッパイのふくらみがひっそりと浮かび上がっていた。
お兄ちゃんの視線を意識したとき、あたしの体の芯でジィンと甘い感覚がうねった。
あたしはエッチな女の子なんだ。
だって、お兄ちゃんに見られただけで、こんなに感じちゃってる。
「由里……」
スポーツで鍛えてるがっしりとしたお兄ちゃんの腕があたしを抱きかかえた。
ぽろぽろとあたしの頭の中から大事な何かが抜け落ちていく。
だけどそんなこと気にならないくらい、あたしはどきどきしてた。
お兄ちゃん……。
すとん。
あたしはお兄ちゃんの膝の上にすっぽりと収まった。お兄ちゃんのベッドの上。
お兄ちゃんの手があたしの頭を撫でてくれた。
びっくりした……。もっとすごいことをされるのかと思っちゃった。
「由里は大きくなったらきっと美人になるよ」
「ほんと?」
また、キュウと下半身が疼いた。
あたしはきっとエッチな女の子になる。
美人でエッチで、お兄ちゃんみたいな男の人に甘えて、手や口や体で、気持ちよくさせてあげる。
そんな女の子に、きっとなる。
あたしはオッパイのふくらみを確かめるように自分の胸に手を置いた。

……あたしは、女の子だ。


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