「あ〜ぁ。何かいい仕事は無いかなぁ……とりあえずバイトでもいいから……」
彼の名は相田誠。二十四歳。以前勤めていた会社をクビになり、今は失業状態だ。
新聞の求人広告を食い入るように眺めているうちにふとある広告に彼の目に留まった。
「なになに? 『旺軽医科大学-研究開発中の医療器具モニター急募! 健康な方なら誰でもOK! 体に害はありませんのでご安心ください』
時給は……な!7千800円!! ……桁間違ってんじゃないのか? コレ……」
その破格の金額に彼は少々目を疑った。
「ひょっとして何か怪しい仕事なのでは……? モニターとか言って実は死体安置所の見回りとか……」
あまりの報酬額の羽振りの良さにいろいろな事を想像する。
「まぁ一度当たってみるか」
とにかく生活する為にも、今は仕事を選んではいられない。
彼は早速その医大を尋ねた。巨大な大学病院の隣に、これまた負けないくらいの広い大学キャンパスの中を歩くと、求人広告に書いてある研究室なる建物が見え
てきた。
「あったあった、ここか……」
そこは周りの綺麗で立派な棟とは比較にならないほど薄汚れた、お世辞にも綺麗とはいえない2階建ての殺風景な小さな建物であった。
彼は扉を開け中に入ると、そこには白衣を着て頭に白髪のある、いかにも教授か博士かという感じの少し年老いた中年と、
その助手と思われる3人の若い大学生がいて、部屋の真ん中にある奇妙な機械をとり囲んで何やら相談をしている。
3人の大学生のうち1人は女性である。
「あのぉ〜求人広告見て着たんですが……」
「おぉ! もしかしてあの広告を見て来たのかね。よかったこれで揃ったな。よし! 面接は省略だ。早速始めよう!」
「えっ! あ、あのぅ〜」
言うが早いか彼は誠をその奇妙な機械に連れて行き、何やら歯医者の診察台のような椅子に案内した。
「初めに聞くが君は何か大きな病気はしたことはないかね? 例えば糖尿とか胃潰瘍とか痔とか……」
(痔ってなんだよ……)
「あっ! いえ無いです。24年間至って健康です」
「そりゃ結構! 早速で何だが、この椅子に寝そべってくれないか。大丈夫! 体に危害は無いから」
教授は誠をその診察台に寝かせると体や手足にベルトを着け、動かないように拘束した。
(体に害は無いとか言って、このベルトは何だよ……)
「少々窮屈かもしれんが我慢してくれ。万が一落ちたらいかんのでな」
隣を見るとさっきの助手と思われる女性も同じように診察台に寝かされていた。
どうやら彼女は助手ではなく誠と同じように募集広告を見てここに来たらしい……
「あのぉ〜。せめてこれから何するのかくらい教えてくれませんか?」
「あぁそうだな、ちょっと急いでいたんで説明を忘れておった。実はこれから君たちに少々の間この椅子に座っててもらう」
「それだけですか?」
「あぁそれだけだ。ただそのとき妙な気分になるかもしれんが……」
「妙な気分?」
「さよう。でも体に害は全く無いなら心配せんでいい、もしも妙な気分になったらそのときの体験を後でレポートしてくれ。それが君の仕事だ。じゃ早速はじめ
ようか?」
そう言うと、誠の頭の上には昔美容院にあった様な、頭がすっぽり入る大きなドライヤーのようなものが覆いかぶさってきた。
そのドライヤーからは無数のケーブルや配線が延びており、それは隣にある冷蔵庫の配電盤のような大きな金属製の箱に繋がれていた。
金属製の箱の周りには数台のパソコンが設置され、そのモニターには何やらプログラムリストのような文字の羅列やグラフ、
そして中でも一番大きなモニタには何処か判らない部屋の画像が映っていた。
画像がノイズだらけで不鮮明なのでハッキリとは判らないが……
「ではプログラムをロードしてくれ……準備はいいか?」
お世辞にもイケてるとは言えないどちらかと言うとちょっとオタク系な助手に指示を出す教授。
(なんかいやな予感がしてきた……)
「スタート!」
するとそのドライヤーのようなものからは青白い光が発光され、その瞬間誠とその隣の女性は異常な睡魔に襲われ、深い眠りに入った…
「よし! どうやら成功したようだな。あとはこの成り行きを見守るだけじゃ……」
◇◆◇
「あれっ? 僕どうしてココに? しかもココは……」
気がつくと誠はトイレの中で直立不動の状態で立っていた。
何故かトイレの中……それも大きい方の用を足す時の狭い壁に囲まれたトイレの中……
誠はそのトイレの扉を開け外に出た。さっきの研究所の部屋とは似ても似つかない綺麗で高級感のあるトイレだ。
「何処だココ? ……そういえばさっき見たあのモニタに映ってた風景になんとなく似てるなココは……あの研究所の中のトイレか?
それにしては随分綺麗だなぁ、まるで何処かの高級ホテルのトイレみたいだ。
あのキタナイ研究室からココに瞬間移動したってことか? まさか……いくら科学が発達したってそんな事が……」
辺りを見回しながら誠は出口のある洗面台の方まで歩いていった。
(それにしても何でトイレ……そういや妙に体が軽いなぁ。それにさっきから背中の辺りがなんかむずかゆいような……)
そして洗面台のそばを通過したとき誠はふと足を止めた。
「あれっ? 今誰か女の人がいたような……ユーレイ? まさか……」
確かに洗面台の鏡に、髪の長い女性らしき人影が一瞬写っていたのが、横目にも誠の視界に入っていた。
誠は恐る恐る洗面台の前まで戻り、鏡を見つめて驚愕した。
そこには確かに髪の長い綺麗な女性が映っていたのだ。
「な、なん?!」
誠は鏡の前で手を振ってみた。すると鏡の向こうの女性も同じように手を振る。
「コレ?! ……僕……?」
驚いて鏡から離れ、自分の姿をよく見ると、上は薄い白いレースのキャミソールにピンクのカーディガンを羽織り、下はヒラヒラした真っ白なロングスカートを
穿いていた。
「な、なんて格好してるんだ! 僕! こういう趣味なんてないぞ! 断じて! こんなカツラまで被って!」
誠はそのカツラを外そうと自分の肩に掛かっているその長い黒髪を手で引っ張ろうとした。
「いてて!」
それはカツラなんかではない、まさしく自分の髪だった。
「なんだこりゃ! いつの間にこんなに髪が伸びたんだ!」
そして誠はそこで胸のあたりが妙に盛り上がっている事に気付いた……いや盛り上がっているというよりは膨らんでいると言った方が正解だ。
誠は服の上から自分の胸を触ってみた。
「げ…こんな胸まで…こりゃ何か中に詰まってるのかな?」
確かめるようにゆっくりと服の中に手を入れまさぐると、胸の辺りに何やらザラザラした感触の布きれのようなものが巻かれているのを感じ取った。
「あ……これって……ぶ、ブラ……だよな。どうもさっきから背中の辺りが痒かったのはコレか……」
背中の辺りの違和感は中に身に着けているブラの締め付けによるものであった。
「あのオッサン、ココまでやらなくても……しかも顔はこんな化粧まで……」
どうやら自分はあの教授にダマされて、寝ている間に女装させられたのだと感じていた。
「それにしても何の為にこんな事……」
誠は試しにその身につけているブラの上から胸を揉んでみた。
その柔らかな乳房の感触が指の先に伝わると同時に、自分の胸の辺りにも例えようも無い快感が襲ってきた。
「あ……う……いい! ……って、感じてる場合か! ……あれっ?! でもなんか変だ……なんで胸まで感じてるんだ?」
誠は着ているキャミソールの間にある自分の胸元を見た。そこには確かに縦に伸びる胸の谷間が見て取れた。
「おお! って……え? ……コレもしかして? まさか!」
誠は意を決し、着ていたキャミソールを捲くり上げ、中に身に着けている純白のブラをたくし上げる。
そこには信じられない光景が彼の目に飛び込んだ。
”ぷるるんっ!”
目の前にはブラの拘束から解放された2つの乳房が──その先端には上を向いてツンとなった乳首──そんな見事な女性の乳房が今、誠の目の前に露になってい
る。
「へ? ……お、おっぱいが、ある?! なんで?」
それほど大きくはないが程よく膨らんだ2つの乳房は自分の胸元で小刻みに揺れている。
「……すると……ま、まさか! ……ココも?」
今度はスカートの上から股間辺りを何度も手でさすってみた……が、例の盛り上がったソレらしい物体は確認できない。
さらにその穿いているスカートを捲くりあげる。
くるぶしまである長いスカートをめくると、その中にはさらにヒラヒラな真っ白いレースのペチコートを穿いており、
そのスカートとペチコートが奥に進もうとする誠の腕に纏わりつきその行く手を阻む。
「あ〜じれったい!」
何とか奥まで手が入ると、そぉ〜っとその先にある一番大事な部分に手を触れてみた……
「そんな……やっぱり……やっぱり無い! 無くなってる!」
ショーツの上から何度も股間を前後にさすってはみたが、そこには普段付いているはずのあるべきモノが、今は影も形も無く、
ただそこに感じ取れるのは2つに割れたスジの割れ目だけであった……
「………」
明らかに医学上これは紛れも無い大人の女性のカラダ……いつの間にか彼は彼女になってしまっていたのだ。
ふと周りを見渡すと、このトイレには男子が小さい方の用を足す便器が何処にも見当たらない事に気付いた。
間違いなくココは女子トイレである。まぁ常識的には正しいのだが……
「確かに今僕は女だから女子トイレ……って、そんなこと言ってる場合か!」
慌ててトイレを出て辺りを探し始める誠。
「なんで? なんでこんな姿に……あのオッサン! この僕の体に一体何をしたんだ! ……どこ行ったオッサン!」