その少女の名前は”さや”という。
名前について、もう少し深く考える余地もあったかもしれないが、
名前なんてどうでも良いと田村玲子女史も言っている。
それに名前の価値とは、それ自体に意味のあるものではなく、後からついてくるものだろう。
「沙耶、かわいいよ沙耶」
少女は全裸でPCの前に座ると、今日はグロいゲームでオナニーを始める。
「だからなんでいつものままなのよ」
背後から声がする。
振り向くと、その場に居るもう一人少女が抗議の表情を見せていた。
うっすらと色のついた髪は短めに纏まっており、そこから端整な顔を覗かせている。
研ぎ澄まされていると表現できるほどに、
綺麗ではあるのに、疎外感を感じないのは表情に若葉のような快活さと、幼さが残っているからだろう。
今の自分と瓜二つのその少女は、ニールという。
歳は今の自分と同じく、大体15歳、といった概観である。
今の自分は全裸だったが、ニールは箪笥から取り出したTシャツを、借りて来ている。
シャツから覗かせた肌は、今の自分と同じく一片の曇りも見出すことはできなかった。
惨事であるとはいえ、ニールの年齢がもう半分も下ならば、彼女を使ってオナニーをしていただろう。
ニールは夢の世界に居るということだったが、
一日3時間までなら、この世界に姿を移すことが出来るとのことだった。
逆に、俺の体を向こうの世界に持ってくることも可能だったが、そちらのほうが体力を使うらしい。
今まで、あえてこの少女が俺を向こうに移してきたのは、力を使うのは逆に向こうのほうが簡単だからだそうだ。
まあ自分には関係なさそうだから、そこらへんはどうでも良いと言えばどうでも良かったが。
「いつものままじゃないぞ」
一応、ニールに向かって返す。
これは使命のようなものだった。
沙耶の唄で抜くことは、つまりは必ず行わなければいけないことであって、しかしその意味は言うわけにはいかなかった。
言えば、そこで消えてしまうだろう、他人に認められてもらうような性質ではない、ほんの微かな意味。
言えないことなら、下らないと言い換えることも出来るだろう。
そもそも、言うわけにはいかないなら、初めから考えなければ良いことではある。
だが、人から思考を取ったら何が残るというのだろう。
考えなければ、それで幸せなこともある。
だが、考えることを何もかも排除していったら、いつか何も言えなくなるときが来る。
そのことに比べれば、何を恐れることがあるだろう。
ニールはしばらくディスプレイを覗きこんでいたが、呟く。
明らかに不審な表情で。
「さやだから沙耶でってこと?」
真実はいつも無残に暴かれる。
「大人はいつもそうやって俺たちの夢を奪うんだ!」
「何いってるのよ!?」
俺の叫びにニールが返すが、所詮女には理解できないことだった。
また、理解を求めるようなものでもないのだろう。
「…元に戻りたくないの?」
「もちろん元には戻るぞ」
ニールに対して告げる。
そもそも、女性化はこのスレと全人類の夢でもある。
でも、女性化なんてものは接着剤、コツでググれば簡単に手に入ること。
手に入らない機能もあるが、そんなものはおまけのようなものだろう。
エネマグラさえ装備していればキャラとハートでおおまかカバー出来るはずだ。
さらなる開発を進める為にちんちんは必要だった。
その前にふたなりも試してみたがったが。
「ぇと」
ニールが言葉を切る。
彼女はこの世界では人の心を読むことは出来ないらしい。
設定としては微妙に都合が良いという気がしないでもない。
でもしないでもないと言うことはしないということも出来るわけで、気がしないと認めてあげても良いと思うんだ。
そんな思考を知ってか知らずか、ニールは説明をする。
「元に戻るためにはエネルギーが必要。でもそれは補給しなければ手に入らない」
「そうなんだけど」
「エネルギーは他人から奪う。そのためには外に出なければいけない」
「そこら辺はちょっと無理だ」
「待て」
あっさり言う俺に対してニールが突っ込む。
外に出るだけなら、なんとか日を選んで出来るだろう。
しかし、会話するために外に出るのは、それは不可能というものだ。
「エネルギーを補給するには精神を交換させることが必要、そのためにはターゲットに対してなるべく深い心の交わりを持つこと」
「俺に…ょぅι゛ょを攫えと?」
「なんでそうなるのよ!?」
ニールがテンポ良く叫ぶ。
しかし、叫ぶだけでは現実的ではない。
「ほかにどうしろって言うんだ?」
「…なんていうか、死んでも良いような気がしてきたんだけど」
「むう」
もっともといえばもっともであると言えたが。
「ふつーに彼女とか彼氏とか作ることは出来ないの? 他にも陵辱されるとか方法はあるのだけど」
「てか無理」
美少女が何でか犯されて、悔しい…でも…感じちゃう!
というシチュエーションは全人類とクリムゾンの夢でもある。
しかし実際には痛いだけだろうし、そもそもそれ自体で死ぬような気がしないでもない。
「2次元で交感するとか方法はないだろうか? 惨事じゃなくて」
「ぇーと。良く分からないけど」
困ったように、ニール。
「まあいきなり欝展開と言うのもなんだし、ここはひとつ沙耶で抜くべきだと思うんだ」
「ぇと」
考えても、仕方がないことはある。
そんなときはオナニーをするべきだろう。
ちなみにニールでググってトップに出るサイトが何かということについては君とボクの間だけの秘密だ。
「沙耶、かわいいよ沙耶」