目の前に立っていたのは、つい4月にこのアパートに入って来たばかりのやせこけた学生だった。
「どうぞ、入っていらして」
「い、いいんですか?」
彼はおどおどと目の前の半裸の女性の表情をうかがっているが、その視線は主にバストと下半身に注がれている。
巻きつけたタオルのおかげで胸は強烈な自己主張をして盛り上がり、下半身は股間が隠れるかどうかギリギリのサイズだ。
しかも切れ目がちょうど股の間にきていて、体を動かす度に股間の翳りが見えそうになる。
学生(と言っても、悠司も同じ学生なのだが)は迷ったあげく、ゆっくりと土間に歩を進めた。
悠司は心の中で、やめろ、やめろ! と何度も叫んだが、元の体の主の言うことを、この体はちっとも聞く気はないようだった。
「あのー、ここに住んでいる人のお知り合いですか?」
ドアを後ろ手に閉めて、彼はおずおずと切り出した。
「ええ。私の家庭教師なんです」
「ああ、そうですか」
なぜか彼はほっとした表情をした。たぶん、多少なりとでも納得できる理由が見つけられたからだろう。
それほどに、今の状況は不条理極まりなく、信じられるようなものではなかった。
裸の美少女が自分を部屋に誘ったと言って、誰が信じてくれるだろう?
「何を教えて貰っているんですか?」
「日本史と、英語です。それから……」
自分の顔が笑顔になってゆくのを、悠司は感じ取っていた。まさか……?
「それから?」
「セックスなんです」
「あ……ああ、はあ……」
唖然となって、ただ立ち尽くすだけの学生。
無理もない。悠司だってこんな状況になれば同じ反応を返すだろう。
「あら、あなたのおちんちん、固くなってませんか?」
「いえ! いや、そんな、あの!」
慌てて下がろうとするが、すぐにドアにぶつかって行き止まってしまう。
「女の子の初めては痛いですけど、男の方は痛くないのでしょう?」
「う、あ。いや、その確かに初めてだけど!」
まるで少女のように慌てふためき、股間を隠す。
「あら、わかりますわ。女性の裸を見慣れていないって、すぐに」
四つんばいになった少女の体から、バスタオルがはらりと落ちた。
学生がごくんと唾を飲み込んだのがわかった。
立っている学生からは、頭と背中とお尻しか見えないだろう。
だがそれでも、彼の股間の物がはた目にもわかるほど大きくなったのがわかる。
少女はそのまま猫のように手足を動かして、土間の学生の足下まで近寄った。
学生はまるで恐怖映画の犠牲者のように目を大きく見開いて、目の前の全裸の美少女を見つめている。
「はい、楽にしてさしあげますね」
足が汚れるのも気にせず膝立ちになって、ズボンのベルトに手をかける。
この相手が自分だったら最高なのにと悠司は思った。
だが現実には、自分は相手に奉仕する側であり、しかも体は自分の思うようには動かない。最悪だった。
あっという間にトランクスもずり下げられた。途中からは学生も協力するように足を動かす。その行動が悠司には不快だった。
「まあ!」
少女は口に手を当てて、声を上げた。
学生は羞恥で顔を真っ赤に染めてうつむく。
大きさはまあ、平均よりやや小さいくらいか。
しかしほとんど完全に勃起しているのにも関わらず、皮は亀頭を完全に覆ったままだった。
なんだ、このホーケイ野郎! と悠司は罵った。だがもちろん、そんな彼の声が相手に伝わることはない。
「すみません……」
学生が小さな声で言った。
「あら、素敵ですわ。私、こんなおちんちんが大好きですもの」
「えっ?」
彼が尋ね返す間もなく、少女は学生のペニスに手をやって、軽く力を込めて根元の方に引っ張った。
大した抵抗も無く皮はずるずると引きずられ、ピンク色の敏感な部分が現れた。
ピアノを弾くのが似つかわしい美しい指が軽やかに動き、彼の亀頭に指を添え、優しくなぞり始めた。
「ううっ!」
学生がうめくと同時にペニスが震え、あっという間に先端から白濁した液が勢いよく迸って少女の髪の毛を汚した。
射精は長く続き、その度に少女の緑の黒髪に男の欲望の証が刻み込まれてゆく。
濃密で、液体よりも個体に近い濃度のそれは、髪だけではなく顔にまでも飛んでいた。
「ふぅぅっ……」
学生は大きく息を吐いてドアにもたれかかった。顔はだらしなく崩れ、快感の余韻に浸りきっているようだ。
一方の悠司は最悪の気分だった。
汚いチンポを見せられたあげく、顔射されるなど屈辱の極みだ。
心の中で血涙を流す悠司をよそに、今の体の主は顔にかけられた白濁液を手に取り、あろうことかそれを舐め始めたのだ。
口の中一杯に形容し難い味が広がる。
苦いような、えぐいような、しょっぱいような味……。
本来は口にする物ではないそれを、少女は当たり前のようにぬぐっては舐め、舐めてはぬぐって、
一滴でもむだにすまいとするように舐め続ける。
「あ……あのっ!」
男が声を上げた。
少女は微笑んで、彼を下から見上げる。
「はい、何でしょう? ……あら、ごめんなさい。まだ残っていましたわね」
男は少女の考えを汲み取って、自ら腰を突き出す。
悠司は全身で抵抗した。
やめろ! やめろ! やめろ! やめろ! やめろ! ヤメロ〜〜〜ッ!!
心の中で全身を突っ張らせるようにし、体の動きを止めようとするが、まるで思うようにならない。
半分勃起したペニスを押し頂くように恭しく持ち上げ、ローズレッドの唇でチュッと先端に口付けをした。
生々しい肉色の亀頭のくびれには、白いカスがこびりついている。
魚か乳製品が発酵したような、汗をかいたシャツを放っておいた時のような匂いが渾然一体となったものが少女の鼻をくすぐる。
背筋がぶるぶるっと震えた。
悠司は心の中で吐き気を感じていたが、今の体の主にとってはこれはまさしく媚薬にも等しい香りであった。
「ああ……なんて美味しそうな恥垢なんでしょう!」
そう小さく叫ぶと、待ちかねたように顔からそれを咥えこんだ。
口から鼻にかけて広がる、アンモニア臭と恥垢の強烈な腐りきったチーズのような味覚は、
悠司の理性を一時的に飛ばしてしまった。だがそれは幸運だった。
もしこのまま理性を保っていれば、恐らく彼は発狂してしまっただろう。
恥垢は少女にとって天上の美味だった。
あっという間にこ削ぎ落とされ、唾液に混じって胃の腑に消えてしまう切なさを惜しみながら、
次なる美味を絞りだそうと手技の限りを尽くす。
口の中でたちまち固さを取り戻してゆくそれを、少女は目を細めて嬉しそうに頬張る。
指で、舌で、唇で。時には軽く歯を立てたり、頬の内側まで使って責めたてた。
童貞の学生がそんなに耐えられる訳もなく、彼はたちまち体を震わせてうめき始めた。
「ああっ! 出るっ! 出ちゃうっ!」
少女が尿道に舌を差し入れた瞬間、堰を切ったように少女の口の中にザーメンが溢れた。
ぬるりとしたそれを、ためらいもせず、むしろ積極的に吸出すようにしてまで絞り出してゆく。
ようやく射精が終わった頃には、学生は荒い息を吐いていた。
チュピンとぬめった音がして、少女がペニスから口を離した。
下から見上げる彼女と、学生の目が合った。
少女は黙って口を開いた。
そこには、彼が放出した生命の源が舌の上に広がっていた。
わざと見せているのだ。
学生がそれを確認したのを見て、少女は口を閉じて精液を飲み込んだ。
ごくん。ごくん。
学生もまた、唾を飲み込んだ。
AVでしか見たことのない光景が、今現実として目の前で繰り広げられているのだ。
とても信じられないが、事実のようだ。でも、まるで夢を見ているようだ。
夢なら醒めてほしくない。
そう思った瞬間、彼のペニスは再び力を取り戻し始めた。
「まだ出せますの?」
少女が言った。
「今度は何をしてさしあげましょうか。今度はおっぱい?」
大きな胸を寄せるようにして、下から持ち上げる。
「それとも……」
少女が立ち上がった。学生は改めて少女の全裸姿を見ることができた。
手足は土間の砂で汚れ、髪には彼の精液がまだこびりついているが、そんな物は彼女の美を全く損ねていなかった。
映画やドラマ、コマーシャルに出ていても不思議ではない美少女が、自分の目の前に全裸で立っているのが信じられない。
それが幻でないことを確かめようと、手を伸ばした。
「お風呂、入り直してきますわね」
彼の思いを察したように、少女がすっと身を引いた。
伸ばした手を降ろしかねて、学生はそのまま呆然と下半身をさらけ出したまま立ち尽くしていた。
すぐそばの風呂場からは、少女の楽しそうなハミングのメロディーが響いてきた。
考えてみれば、自分もこのハミングに魅せられて、吸い寄せられるように風呂場を覗いてしまったのだった。
学生はトランクスとズボンをはき直してしばらく待ったが、シャワーはなかなか止まる気配がない。
このまま帰っていいものかどうか、彼は迷っていた。
十分ほども迷っていただろうか。
彼は勇気を奮って靴を脱ぎ、彼女が消えた風呂場へと向かい、その扉を開けた。
「ずいぶんと……遅かったですね」
少女は風呂桶の端に腰を下ろして、入口の彼の方を見ていた。
シャワーは彼女の傍らに転がって、意味も無く温水を吹き出している。
「あ……うん」
信じられない。
彼女は自分が来るのを待っていたんだ!
震えながら、学生は深呼吸をした。
まるで酒を初めて飲んだ時のように、体がふわふわと浮き上がるような感じだと、学生は思った。
手が震える。足も震えている。
「服を脱がないんですの?
まあ、濡れた服でセックスをするのも素敵ですけども、やっぱり直接肌と肌を触れ合わせたいですね」
少女の言葉に、彼は急いでシャツをはぎ取るように脱ぎ去り、一度は着たズボンやトランクスを脱いだ。
その様子を彼女は、目を細めてじっとみつめていた。
実は彼女は、外出する時には眼鏡がないと少し不自由する程度の近視だった。
だから、眼鏡がないとつい、目を細めて見つめてしまうのだ。
やや垂れ目がちな少女のそんな様子は、彼女の柔らかな風貌と相まって、
不快に思われかねないこの仕草をかえって魅力あるものにさせていた。
たちまち少女と同じように全裸になった学生は、おずおずと風呂場に足を踏み入れた。
風呂場は狭い。人間が2人座るくらいのスペースはあるが、身動きをしようものならたちまち壁に当たってしまうだろう。
どうするのだろうと所在無げに突っ立っていると、少女は彼に背中を見せ、
手早く風呂桶にふたをして、その上に上半身を預けて足を開いた。
「後ろから、来て……」
いきなり直球。それもド真ん中、180Kクラスのスーパーストレートだった。
無修正ビデオも見たことがない彼にとって、初めての女性器が目の前に広がっていた。
大きなお尻が人の字のように割れ、その狭間には小さくすぼまったアヌスと、珊瑚色をした媚唇が彼を待ち構えている。
学生はぽってりとしたお尻に両手をかけ、闇雲に腰を突き入れた。
何度か滑ったが、少女は慌てず彼のペニスに手をやって誘導して挿入を果たさせた。
暖かく、ぬるぬるとした得体の知れない中に性器を入れる未知の快感に、学生は思わず呻き声を上げた。
「にゃああんっ!」
少女もまた、猫のような声を上げてのけぞった。濡れた髪が跳ね、風呂場に小さな水滴が舞い上がる。
その光景を、悠司はまるで他人事のように呆然と感じていた。
なんか必死だなあ……。俺の初体験の時もこんなふうだったのかな。
悠司の初体験も同じ後背位だった。
あまり好きでもない2年下の後輩から告白され、大した顔でもないと思いながらつき合い始めた。
セックスをしたのは、告白されて2週間後だった。
彼のハートを真に射止めるためにはこれしかない! と周りからはやしたてられ、彼女の方から求めてきたのだ。
それからは卒業するまで、週に2回はセックスをした。
彼が卒業して東京に出てきてからも、彼女からは週に一回は手紙が着た。だが彼は返事を出したことなど一度も無かった。
やがて手紙は隔週となり、月一になり、季節毎になり、昨年の暑中見舞いを最後にとうとう途絶えてしまった。
卒業してから3年……か。
彼が宿る肉体が繰り広げる痴態をよそに、彼の思考は全く違う空間を漂い続けている。
魂だけが抜け出たように、悠司は客観的に、男と女、両方の視点で目の前のセックスを分析する。
学生はただ、ひたすら腰を前後に動かしている。
まるでダッチワイフでオナニーをしているみたいだな。と、悠司はぼんやりと思った。
好き嫌いとは関係無しに、ただ肉体の快楽だけを求めて求め合う関係は、まさに彼が考えた事そのものだった。
しかし、気持ち良さそうにしていやがるなあ。
快楽と切り離された彼の自我は、そう呑気に思った。
やがて学生の息が荒くなり、腰の動きも短く早い物へと変わってきた。
それでも何度か抜けそうになり、そのたびに慌てて挿入し直す。
ああ、そういえばスキンをつけていないな……。
悠司の意識はそれを最後に、ブラックアウトした。
少女の喘ぎ声はもはや遠慮仮借なくなり、アパートどころか道路にまで響き渡り始めていた。
「あふん! いいの! おちんちん一杯、おまんこにっ、いいのっ!
もっとおまんこぉっ刺してっ! 奥までいぃぃっぱぁぁい、じゅくじゅくにしてぇっ!」
「ぼ、ボクもうだめだっ!」
「中にぃっ! せーしいっぱい、中に出してえぇぇっ!!!」
学生が少女に覆い被さるように倒れ込むと同時に、射精が始まった。
「あきゅうぅぅんっ……せーし……せーしがいっぱいなのぉ。
どくっどくっておまんこに一杯なのぉ……もっとせーしちょうだい……もっとぉ!」
ペニスが奥まで吸い込まれるようだった。三度目の射精だというのに、量も今までの中で一番多かった。
ここ1ヶ月していなかったオナニーの分を一度で取り戻すかのような、凄まじい射精だった。
いつまでもいつまでもペニスは脈打ち続け、お腹が空っぽになるような感じだ。
そのうち、痛みを感じて彼は彼女の上から退いた。次いで、小さくなったペニスも彼女の中からこぼれ出た。
まだペニスは脈打ち続けているが、何も出る物はない。それなのに、まだ射精をしようとして、びくびくと脈打っている。
少女が体を返して、立ち尽くしている彼の足下にひざまずいて萎えたモノに手を伸ばした。
学生はびくっとして、一歩後退った。
先程までは魅力的に見えた笑顔が、今度は悪魔のそれに見えた。
底抜けの淫魔だ。
やっぱり都会は怖い所だ。祖母の言うことは本当だった。
学生は身を翻し、転ぶように風呂場から逃げ出した。服を引っ掴み、裸なのも構わずに部屋から消え去った。
少女は彼を引き止めもせず、彼が部屋から出ていってから、ぽつりと呟いた。
「あら。期待していたのにたった3回だけなんて、残念ですわ」
股間から流れ出る精液をすくいとって、口元まで持って舐めた。
「でも……あなた方は期待を裏切りませんよね?」
彼女が振り向いた換気窓には、何人もの目を血走らせた男が群がっていた。
そして、微笑んで言う。
「さあ、どうぞいらっしゃい。そして私を満足させてくださいね」
地響のような音と共に扉が開いた。
そしてアパート全体がきしみ始める……。