風間さんと暮らし始めて1週間が過ぎようとしていた。
二人分の朝食を作るのもすっかり慣れ、風間さんを店へと送り出し一人朝食の片付けをしていた。
我ながら可愛い彼女だと思う(自分で言って恥ずかしくはあるが)。こうして二人分のお茶碗を洗っているだけで私は幸せだった。
カタン・・・
何か郵便が届いた音がした。私は洗い物の手を止め郵便受けを覗きこむと、そこには何も書かれていない一通の茶封筒があった。
「なんだろう?」
レターオープナーを取り茶封筒を開けると飾り気の無いコピー用紙が1枚入っていた。
そしてその無機質な1枚の手紙は私のささやかな幸せを砕くには十分なものだった。
『親愛なる大塚君へ
やっと見つけた・・・・自分で戻るならそれも良し、もし戻らないならば
こちらにもそれなりの準備がある。
よく考えるように。
草川栄治 』
カタカタカタカタ・・・
手紙を持つ手が・・・いや、身体の奥底から震えが起こった。
草川に・・・・見つかった。
封筒に何も書かれていないということは草川の関係者が直にこの手紙を届けたのだろう。それに最後の奴のサインは間違いなく草川自身のものだ。
トゥルルルルル・・・・・
不意に電話のベルが鳴る。心臓が弾けそうなほど鼓動する。
ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・・
震える手で受話器を取りそっと耳にあてる。
「はい・・・風間です」
声が震えているのが自分でも判る。相手が答えるまでの僅かな時間がとてつもなく長い時間に感じられた。
「久しぶりだな・・・・大塚君、いや、瑠璃ちゃんと呼んだほうが良いかな、ん?」
「く・・・草川さん?・・・なぜ?」
「私を舐めてもらっては困るよ。君が相手をしているのは国家だよ不可能は無い」
奥歯が震えによってガチガチと音を立てる。またあのペットのような生活に戻るのは嫌だ・・・それに今手にした幸せを失うのが怖い。
「お願い、見逃して・・・私のささやかな幸せを壊さないで」
「私は・・・・か・・・すっかり女が板についた様じゃないか。今後の為のいいデータになるな・・・・」
「え? データ?・・・何?」
「ふん、君には関係ないことだ。3日間猶予をやる。それまでに私のもとへ戻れ。さもなくば愛しの彼を巻き込むことになる。よく考えることだ」
プツン・・・・ツーツーツーツー
唐突に電話は切れた。だが私の脳裏には草川の言葉がこびりついて離れなかった。
・・・3日間猶予をやる。それまでに私のもとへ戻れ、さもなくば愛しの彼を巻き込むことになる・・・
いや・・・いや・・・彼と離れたくない・・・・やっと掴んだこの幸せを手放したくない。
でも・・・・・・・・・・このままでは彼に迷惑が掛かる。
行くべきか・・・それともこのまま留まるべきか二つの選択肢が心に浮かんでは沈んでいった。
時計の針は8時を回っていた。そろそろ店に行かなくては、震える手でエプロンを解き彼の店に向かった。
店に入ると風間さんは真剣な顔でコーヒー豆を炒っていた。その顔を見ると私の胸は激しく締め付けられた。
このまま一緒に居たい・・・でも・・・この人を巻き込みたくない・・・
「瑠璃ちゃん?・・・顔色悪いけど大丈夫?」
風間さんの声が私の思考をさえぎった。私の顔を覗き込む彼の顔は本気で私の心配をしてくれているように思える。
「うん・・・大丈夫」
私はそう言って店のエプロンに手を伸ばす。しかし彼はそんな私の私の手を握り、首を振った。
「無理しちゃ駄目だ、君は既にこの店にとって大事な人なんだから・・・・それに・・・・
こんな時に言うのも卑怯かもしれない・・・・でも・・・・これ以上自分をごまかしたくないから・・・・
君は僕にとっても大切な女(ひと)だから・・・無理しないで」
ポタリ・・・・ポタリ・・・・と涙が床にこぼれ落ちた。そしてしばしの沈黙の後、私と彼は唇を重ねていた。
彼のぬくもりを失いたくは無い・・・・・・・・・・でもその優しさをこの地上から消し去るのはもっと嫌だ・・・・
風間さんの優しさに背中を押され私の心は決まった。
「ん・・・んふぅ・・・ちゅ・・・う・・ん」
先程よりより激しくお互いを求め合う。舌が唇を押し開き絡み合い体温までも溶け合うようだ。
キスをしている間にいつのまにか彼の手は私の胸へ延びていた。
カッターシャツのボタンをひとつ・・・またひとつと外し、その隙間からこぼれた乳房を優しく・・・だが力強く揉みしだく。
「う・・く・・・くふぅ・・・ん・・・あ・・・」
開店前の静かな喫茶店に私の声が響く、その声は明らかに艶を帯びたものに変化していた。
・・・気持ちいい・・・・
草川とのセックスでは決して味わうことの無かった甘い感覚が指先まで全身を支配する。
彼が触れるたびに私の身体は嬉しさに打ち震えた。
ジィィィィ
不意にジッパーを開ける音が耳に入ってきた。私のジーンズに彼が手を掛ける。
・・・・恥ずかしい・・・(けど嬉しい)羞恥心と恋心が複雑に絡み合う。
彼は絡み合った羞恥心をキスで解きほぐしジーンズは抵抗も無くスルリと脚から抜けていった。
「あ・・・あふぅ・・・んん・・あはぁぁぁ」
舌が私のふくらはぎから腿へ・・・・そして薄布に覆われた秘部へと這い回る。
草川にされた時には嫌悪感しか沸かなかったが風間さんにされるともっと・・・もっと・・・と身体が求めるのが自分でも判る。その心の叫びに呼応するように
私の秘裂からは既に熱い粘液が泉のごとく湧きでていた。
目を下に移すと風間さんのモノは既に開放してくれといわんばかりにジーンズを押し上げていた。
私は跪き、彼のジーンズのジッパーを下ろしソレを開放した。
かつて自分も持っていたモノ・・・そしてかつて女たちを貶めたモノ・・・だが今の自分にとってソレはひどく愛しく思えた。
「ん・・・ん・・ふぅ・・んちゅ・・・んん・・・」
目の前にあるソレに手を伸ばし口をつけた。
「んはぁ・・・んん・・・ちゅ・・・ちゅば・・・んふぅ・・・」
愛しくて・・・愛しくていつまでもこうしていたい。だがその願いは彼によって拒まれてしまった。
「あ・・・る・・・瑠璃ちゃん・・・も・・・もう・・・んっ・・・」
彼は私の口からモノを引き抜き息を荒げていた。私は玩具を取り上げられた幼子のような顔でそんな彼を見つめ、願いを口にした。
「お願い・・・もう・・・私・・・・風間さんが・・・欲しい」
風間さんは静かに頷き私を店内のソファーに寝かした。
既に私の粘液によって濡れてしまったショーツを剥ぎ取り露になった私の秘裂に己のモノをあてがった。
「あふぁ・・・ふぁあああ・・ひぃ・・あっ・・・・ああああ」
熱い塊が身体を割って入ってくる・・・彼が動くたび今まで味わったことの無い大きな快楽の波が私に打ちつけ、私の意識はその波にさらわれていった。
「風間さん・・・風間さん・・・・好き・・・・好き・・・」
「瑠璃・・・僕も・・・・もう離さない・・・・・絶対に・・・・」
嬉しい・・・でも・・・・私は・・・・
とたんに涙が溢れ出した。
ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・私は・・・・
彼の律動が早まる、それとともに私の中からそれまでよりも更に大きな快楽の波が私に襲い掛かってきた。
「あああああ・・・・いい・・・・いく・・・もう・・・いく・・・いっちゃう・・・あああああぁぁぁぁああああ」
私の中で熱いものが弾けた。この感覚・・・・あったかくて・・・・なんだか嬉しい・・・・
その夜、私は風間さんと一緒のベッドに入った。
この温もりをもう味わえないと思うと涙が溢れる。彼に気づかれないよう袖で涙を拭った。
やがて彼は眠りについた。私は彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出た。
「さようなら・・・」
髪をかき上げ彼に別れのキスをした。我慢していた涙が際限無くこぼれ落ちてきた。
でも・・・もう涙は隠さない・・・・それが私の気持ちだから。
物音を立てないように玄関まで向かう。名残惜しい、でも別れなければならない。
「さようなら・・・・瑠璃は・・・・あなたを・・・風間 真を愛しています・・・」
最後の一言を残し私は街へ駆け出した。
The End