『ふぅ〜…今日はここまでにしとくか』
机の上にペンを転がし椅子にもたれ掛かる。やっぱり1日休んだだけでもけっこう授業は進んでるものだ。
家で独学で勉強したつもりだったが学校の授業でいくつか分からないところがあった。
俺が勤勉なのはあまり頭がよくないからだ。
なんとか学年50以内をキープしてるのは他人よりもかなり勉強してるからだろう。
翔にはよくキモいガリ勉野郎と言われるが、今の世の中遊んでいて暮らせるほど甘くはない。
翔の奴は生まれつき頭がいいからある程度は遊んでいても大丈夫だが、俺みたいな凡人はそんなに余裕はないわけだ。
“何回転んだっていいさ♪擦り剥いた傷をちゃんと見るんだ♪”
気が付くと携帯が鳴っていた。メールみたいだ。稔からか…
「翔ちゃんと付き合わせてくれ」
“→メールを削除します”
まったく見境がないなあいつは。だからちゃんとした彼女が出来ないんだ。俺も彼女が出来ないって点では同じだが。
『ふぁあ〜』
眠い。アクビしたら涙が出てきた。時計を見ると12時をまわっていた。風呂入って寝よ。
そのままタンスから着替えを取り出しフラフラとした足取りで洗面所に向かう。
…普段なら翔は風呂入るのが早いので俺が後風呂になるのが決まりみたいなものだった。
しかも1度湯がおとしてあるのでいつも俺はシャワーですませていた。
習慣ってのは恐いものだ。不測の事態に対応できない。
俺は洗面所に俺のではない着替えが置いてある時点ですぐに気づくべきだった。
普通に制服を脱ぎ、タオルを持つ。
眠気で頭が朦朧としていたのか、風呂場の中に人の気配があるのも気が付かないまま風呂場のドアを開けた。
ちなみに何故か家の風呂には鍵がない。鍵がなくても誰か入ってたら誰も入らないのは当然だからかもしれない。
トイレに鍵があるのはスゲーよく分かる。
排泄行為を誰かに見られるなんぞ絶対嫌だからな…だが風呂場に鍵がないってのはどういうことだああ〜〜〜〜〜〜っ!?
裸見られるのは嫌じゃないのかよ―――ッ!
ナメやがって、この家を造った建築会社超イラつくぜぇ〜〜〜〜〜ッ!!
裸見られるのも普通嫌だろうが!
どういうことだ! どういうことだよッ! クソ! 風呂場に鍵がねえってどういうことだよ!
ナメやがって! クソッ! クソッ!
風呂場には湯気が立ちこめていて初めはよく見えなかった。徐々に霧が晴れるように視界がクリアになっていく。そこには
『な!!?』
白い肌。ボディーソープの泡がついていて、ほんのりと蒸気している。艶のある髪は濡れてよりいっそう輝いている。
イスの上にはまるで桃のような大きなお尻がのっている。
すごく、綺麗だ。
誰が?
『死ねえ――――!!!!!』
次の瞬間、堅いものが額にクリーンヒットする。これは石鹸か…?
『がっ!?』
その瞬間眠気でまともに動いてなかった頭が再起動する。だぁ!!俺はなんてことを!
『てめえ…覚悟は、出来てんだろうな〜〜〜〜?』
バスタオルを巻いた翔が拳をポキポキならしながら仁王立ちでこちらを見ている。
あ、俺死んだ…
――――少々お待ち下さい――――
『…痛ってえ』
殴られたところをさする。青アザになってるな。
翔は完璧に「君がッ! 泣くまで! 殴るのを止めないッ!」状態だったからな。
さしものDIOもビックリだ。
全身をまるでマグナムのような拳で撃ち抜かれ、もはや立っていることもままならない。
幸いなことに骨は折れてないみたいだ、骨は…
翔は俺をボコボコにして気が済んだのか今は部屋に帰って寝てる。
あの後痛みにたえ、軽くシャワーをあびた俺も今は自分のベッドに転がっている。
『よく死ななかったな…ホント』
人間の体はわりと丈夫に出来ているってことを今日再確認した。これなら2階くらいの高さから落ちても助かるわな、そりゃ。
『でも…翔、綺麗だったな』
一瞬だけ見た翔の体を思い出す。
男のように変にゴツゴツしたものではなく、すらっと伸びた白い背中。
腰のあたりもきゅっとくびれていて細い。
けどそれに反比例してお尻は大きかった。
後ろからだったため胸とかは見えなかったがそれでも充分セクシーだった。
『…って、何考えてんだ俺』
自分の弟、いや今は妹か…の裸を思い浮かべるなんぞ…マジで変態だ。
『まいったな。俺変態だったのか…』
ハハ、とカラ笑いしてみる。むなしい。
女の子とあまり付き合ったことがないのに…身近に突然女の子が現れてちょっと変になってるのかもしれない。
これでは稔を馬鹿に出来ないな…
『ああ、もう〜。変なこと考えてないでさっさと寝る』
枕にボフっと顔をうめる。こんな時は寝るに限る。とはいえ全身痛くてなかなか寝られないが…