目が覚めると、そこはベッドの上だった。
「……夢?」
彼女は上半身を起こして、周りを見渡した。
柔らかい間接灯のあかりに満たされている細長い部屋には数十床のベッドがずらりと並べられているが、半分以上が空いている。
残りのベッドにはどれも、少女が静かに眠っている。ただ、どこにも窓が一切無いのが無気味だった。
「私……んっ!」
頭に錐(きり)を突き立てられたような痛みが走る。
心の中に不安がわき上がるが、同時にそれ以上の幸福感が込み上げてきて気が紛れた。それなのに、胃の底に石を置かれたような感じがする。
「生理なのかしら」
彼女は自分のお腹をのぞきこもうとして気がついた。
「やだ……これじゃ丸見えじゃない」
部屋着より簡素な、手術の時に身に着けるような服だ。両脇を二本の紐で結わえられただけなので、伝説の裸エプロンに近いような状態だ。
ただしこちらは、うしろも隠されているのだが。
ふっくらと大きく膨らんだ胸は下着もつけていない。そっと下半身に手を伸ばすと、そちらの方も下着をはいていないようだ。彼女は慌てて手を引っ込めた。
「ここ、どこなのかしら」
超ミニスカート並の股下十センチという危険領域しかない短い丈を気にしながら、立ち上がる。
少し目眩がしたが、しばらく腰を掛け目をつぶって座っていると落ち着いた。
再び立ち上がって、二個空いた右隣のベッドに向かう。
「かわいい子……」
小さな寝息が聞こえる。
両手をへそのあたりで組んで眠っている少女の顔をそっとのぞいて見ると、外国の血が混じった子なのだろうか。
色白の肌に薔薇色の唇が映える、間違いなく美少女と呼ばれる部類に属していた。
他のベッドに寝ている人も全部見てまわったが、どれもミドルティーンの美少女ばかりだった。
「なんで私がこんなところにいるのかしら?」
そっと呟くが、自分自身も眠り姫達に負けていない美少女であることを、まだ彼女は理解していない。
一通り見てまわった後、彼女はまた、自分が寝ていたベッドに戻った。
眠たくないので寝るわけにもいかないし、無為に寝転がっているのは気が引けた。
かと言ってやることがあるわけもないので、ベッドの上に正座をして黙って時間が経つのを待った。
待っていればそのうち、御主人様が――。
「御主人様?」
何かが引っ掛かる。
動いた拍子に、胸が揺れた。
「本当に大きなおっぱい……」
この部屋の中では、おそらく自分が一番大きなバストの持ち主だ。布切れと言ってもいい服の脇から、そっと両手を胸に伸ばす。
ひやっとした手の冷たさに、おもわず身震いしてしまうが、すぐに肌と肌がなじんだ。
柔らかくて、下はふっくらしている。手の中にはおさまりきらない。そっと下から持ち上げてみると、ずっしりとなかなか重い。
それなのに全く形が崩れていないどころか、薄い布地を内側からツン! と押し上げて自己主張をしている先端の突起は、上を向いているほどだ。
たっぷりD……いや、Eカップくらいはあるだろう。指を押しこんでみるが、中に何かを入れているような感じもない。
胸の上の方を触ってみると、今度は指を押し返すような張りがある。これでバストを支えているのだろう。
それでも脂肪が薄く乗った感触は、決して悪いものではない。
「ん……ふぅ……」
いつしか彼女は足を崩し、胸をいじり回すのに夢中になっていた。
ゆっくり胸を揉むだけで体が火照る。少ししこり始めた乳首が布地に擦れて、甘い疼きを生み出している。
どこまでも柔らかいのに、指を押し返す弾力性がある。中に詰め物でも埋めこんでいるのではないかともおもったが、どこにも異物感は指先には感じられな
い。
中に神経が張り巡らされているような、触るほどに指と胸が一体化していくようだ。
彼女は「ル」の形に足を崩して、お尻を直にベッドに押しつける。体が柔軟なのか、少し無理な体勢でもまったく苦にならない。
胸の愛撫に自分でももどかしさを感じるが、敏感な場所には決して手を触れない。
そこは御主人様のために、そしてその御主人様の種を受けた子供だけが触ることのできる特別な場所……。
「――!」
少女の手が止まった。
頭の中に、名前が……思い出せない、大事な何かが閃光のように瞬いた。
「私……私は……違う。私……何か、違う……」
空調が発する低い音と小さな寝息だけの部屋の中に一人、胸を抱きかかえるようにして、少女は苦悶しはじめた。
思い出したいのに、それを押し留める圧力が彼女を苦しめている。
「若桜――和哉……?」
頭が膨れ上がったようになり、耳鳴りが酷い。心臓の脈動が耳元で脈打っているようだ。息も苦しい。胸を突かれたような痛みも激しい。
「いや……いやっ……! 私は……私は、女なんかじゃ、ない……」
それなのに、自分には胸がある。
股間にはスリットしかない。
これで、男であるはずがない。
「どうして……? 私、どうして女なの?」
苦しみに悶える声さえ、決して不快ではない。どこまでも保護欲をそそり、耳に心地好い響きを帯びている。
「ああ……嫌ぁっ! この声! 大嫌いっ!」
両耳を手でふさいで顔を左右に振る。肩のやや上まである、黒いつややかな髪の毛がさらさらと揺れた。
この肉体が許せないのにどうしようもならない絶望感に包まれて、少女は泣き崩れる。すると股間がベッドの布地に擦れて、じんわりとした暖かさが広がっ
た。
「ん、ふぅ……」
少女は泣きながらも、無意識に腰を動かして強く股間を押しつけた。柔らかいパイル織りの布地が股間のスリットを刺激し、くすぐったさと快感が強まる。
「やだぁ……こんなの、こんなことしたくない……しちゃだめなのにぃ、腰が……腰が動いちゃうのぉ……」
いつしか少女の涙は枯れ、静かな部屋の中には彼女の押し殺した声と、小さなくちゅくちゅという音が響き始めた……。