しんと静まり返ったホテルのロビーに居る、微動だにしない人間はまるでマネキン人形のようだ。
「それにしてもみんな見事な美男美女ばかりで……ブサイクなのは一人もいないわね……これも仮想世界のなせる業なの?
これが仮想の世界なんて未だに信じられない……この柱も作り物の偽物って……どう見ても本物の柱よね……?」
麻子はロビーの真ん中に高い天井までそびえ立つ、立派な大理石の柱をポンポンと叩く。
大理石の硬く冷たい感触が麻子の色白の細長い指先に伝わる……
ふとその柱の向こうにブルーのフォーマルドレスを着た女性の姿を見つけた。
薄く透き通るようなショールを羽織り、テカテカ光るサテン生地の胸元も大きく開いたドレスの女性。
「一応この人は私の友人って設定なのね……それにしてもおっぱいおっき〜い!」
そのドレスに包まれた2つの豊満な乳房は、今にもドレスからこぼれ落ちそうである。麻子は思わずその胸元に顔を覗き込む。
「ひゃーっ! 近くで見るとますます凄いわ! ……ハァハァ……な、何だか興奮してきた……あん!私今は女なのに……」
姿はスカート穿いた女性でも中身はやはり一人の男。麻子にとっては刺激的過ぎる光景だ。
「この胸、一体どのくらいあるのかしら? ……これってやっぱりあの教授やあのキモい助手の趣味なの? いやらしい!
でも、その割には私の胸って見た目はそんなに大きくないわね……」
麻子は思わず自分の胸元を見る。その着ているキャミの膨らみは目の前のドレスの女性と比較しても明らかに控えめだ。
「この娘の胸、私のとどのくらい違うのかしら? ……あはっ! ちょ、ちょっと失礼して確認させてもらおうかな……」
麻子はそのドレス胸元にそっと手を伸ばし、ツルツルのサテン生地のドレスの上から胸をゆっくりと揉む。と、同時に反対の手で自分の胸も揉み始める。
「あぁ……凄い……この感触……やっぱりおっきい……この娘の……あん! でも、でも……私のだって…… ま、負けてないわ……あはぁん……
な、なんだかおっぱいが……ダメ……か、感じちゃう……こんなの……初めて……あ! あぁん! ……いい!」
麻子は大きさの異なる双方の乳房を触っているうちに、自分自身の乳房にまでそれまで体験したことも無い快感が襲ってきた。
足を閉じ、腰をくねらせながら感じ始める麻子。
一人の女性が自分の胸を揉みながら目の前の女性の胸を揉んでいるその様はまさにレズな光景そのものであった。
そのときである。また麻子の頭の中に例のあの声が──
「おーい! わしじゃ、わしじゃ! 聞こえるか!」
「あっ! は、はい!」
麻子はビックリしてすかさず揉んでいた自分の手を引っ込めた。
「待たせたな。いや〜一生懸命説得したんじゃが、どうも彼女あまり乗り気じゃくてな。仕方が無いんで帰してしまった」
「えぇ〜! じゃあ私の結婚相手は逃げたって事? どうするの? これじゃ話が先に進まないんじゃ……せっかくこっちは半分乗り気になってたとこだっての
に……」
「大丈夫じゃ! こんな事もあろうかとちゃんと代役を立てておる」
「代役?」
◇◆◇
「では時間もないんで早速プログラムを再始動するぞ! そのままじっとして……準備はいいか?」
「あ、はい……」
その瞬間、ビデオの一時停止→再生の如く、何事も無かったかのように再び周りの人々が動き始めた。
「あら? 麻子じゃない。今日はオメデトウ!」
ペコリと頭を下げ麻子に挨拶をするブルーのドレスの女性。前かがみになった彼女のその豊かな胸の谷間が、ドレス越しにくっきりと麻子の視界にイヤでも入
る。
「あ、あ、いや! こ、こちらこそドーモ……」
すこし緊張気味の麻子も深々とお辞儀をする。やはりこのドレスの女性は麻子の友人という設定のようだ。
さっきまで興奮しながら揉んでいたその彼女の豊満な乳房が、ブルーの光沢のドレスの上で小刻みにプルプル揺れている、
麻子はどうもそれがさっきから気になって仕方がない。
「それにしても麻子ぉ、本日の主役がこんなとこで呑気に油売っててもいいの?」
「えっ?」
その時である。遠くから大声で麻子を呼ぶ声が──
「あ〜いたいた! 良かったぁ! ちょっと麻子さん、何処にいたんですか?」
その声の主はピンクのベストとタイトスカートにブラウスという、OL制服のようなスーツを着た女性であった。
どうやらこのホテルの従業員のようである。
「さぁ、早くこちらへ!」
言うが早いか、いきなり麻子の手を掴み、何処かへ連れて行こうとする従業員。
「えっ! ちょ、ちょっと! 何ですか? いきなり! 何処に連れてくんですか?」
「決まってるじゃないですか、控え室ですよ! これからあなたはドレスを着るんです。あ〜まだ髪もセットしてない! メイクも……ブツブツ……さぁ急
がないと式まで時間がありませんよ!」
「え? ……あ、ドレスって……あの、もしかしてウェディングドレスのことですか……?」
「当たり前じゃないですか! 花嫁さんがなに寝言いってるんです! さぁ早く!」
(きゃーっ! やっぱり着ちゃうのね、ウェディングドレス! ……なんかワクワクしてきたわ)
麻子はその従業員に連れられとある部屋の一室へと入った。
そこはなにやらゴシック調というか、如何にもという感じのあらゆる装飾の施されたアンティークな部屋、そしてその一角に真っ白いウェディングドレスが掛
かっていた。
着ればおそらく肩から上が露出し、胸元が大きくはだけるであろうレースの装飾の施されたチューブトップに、スカートは床を引きずるほどの3段フリルのロン
グスカート。
そしてその傍には透き通るようなベール……それはまさに汚れの無い、純白というにふさわしいウェディングドレスであった。
(……こ、こんなの着るの! ……この私が?)
「さてと……そういえばもう一方の主役は何処にいったの?」
他の従業員が答えた。
「さっきトイレに行ったそうなので、もう直ぐ戻ってくると思いますが……」